「フォークス」そう言うなり、シリウスが羊皮紙をさっと取り上げた。「ダンブルドアの筆跡ひっせきではない――君たちの母さんからの伝言に違いない――さあ――」
シリウスが手紙をジョージの手に押しつけ、ジョージが引きちぎるようにそれを広げて読み上げた。
お父さまはまだ生きています。母さんは聖せいマンゴに行くところです。じっとしているのですよ。できるだけ早く知らせを送ります。
ママより
ジョージがテーブルを見回した。
「まだ生きてる……」ゆっくりと、ジョージが言った。「だけど、それじゃ、まるで……」
最後まで言わなくてもわかった。ハリーもそう思った。まるでウィーズリーおじさんが、生死の境を彷徨さまよっているような言い方だ。ロンは相変わらずひどく蒼あおい顔で、母親の手紙の裏うらを見つめていた。まるで、そこに慰なぐさめの言葉を求めているかのようだった。フレッドはジョージの手から羊よう皮ひ紙しをひったくり、自分で読んだ。それからハリーを見た。ハリーはバタービールを持つ手がまた震ふるえ出すのを感じ、震えを止めようと一層いっそう固く握にぎり締しめた。
こんなに長い夜をまんじりともせずに過ごしたことがあったろうか……ハリーの記憶きおくにはなかった。シリウスが、言うだけは言ってみようという調子で、ベッドで寝てはどうかと一度だけ提案したが、ウィーズリー兄弟妹きょうだいの嫌悪けんおの目つきだけで、答えは明らかだった。全員がほとんど黙だまりこくってテーブルを囲み、ときどきバタービールの瓶びんを口元に運びながら、蝋燭ろうそくの芯しんが、溶とけた蝋溜ろうだまりにだんだん沈んでいくのを眺ながめていた。話すことといえば、時間を確かめ合うとか、どうなっているんだろうと口に出すとか、ウィーズリーおばさんがとっくに聖マンゴに着いていたのだから、悪いことが起こっていればすでにそういう知らせが来ていたはずだと、互いに確認かくにんし合ったりするばかりだった。
フレッドがとろっと眠り、頭が傾かしいで肩についた。ジニーは椅子の上で猫のように丸まっていたが、目はしっかり開いていた。そこに暖炉だんろの火が映うつっているのを、ハリーは見た。ロンは両手で頭を抱えて座っていた。眠っているのか起きているのかわからない。家族の悲しみを前に、よそ者のハリーとシリウスは二人で幾度いくどとなく顔を見合わせた。そして待った……ひたすら待った……。
ロンの腕時計で明け方の五時十分過ぎ、厨ちゅう房ぼうの戸がパッと開き、ウィーズリーおばさんが入ってきた。ひどく蒼ざめてはいたが、みんなが一斉いっせいに顔を向け、フレッド、ロン、ハリーが椅子から腰を浮かせたとき、おばさんは力なく微笑ほほえんだ。
「大だい丈じょう夫ぶですよ」おばさんの声は、疲れ切って弱々しかった。「お父さまは眠っています。あとでみんなで面会に行きましょう。いまは、ビルが看みています。午前中、仕事を休む予定でね」
フレッドは両手で顔を覆おおい、ドサリと椅子に戻った。ジョージとジニーは立ち上がり、急いで母親に近寄って抱きついた。ロンはへなへなと笑い、残っていたバタービールを一気に飲み干ほした。