「ここからそう遠くない」ムーディが唸うなるように言った。駅を出ると、冬の空気は冷たく、広い通りの両側にはびっしりと店が並んで、クリスマスの買物客で一いっ杯ぱいだった。ムーディはハリーを少し前に押し出し、すぐ後ろをコツッコツッと歩いてきた。目深に被った帽子ぼうしの下で、例の目がぐるぐると四し方ほう八はっ方ぽうを見ていることが、ハリーにはわかった。「病院に格好かっこうの場所を探すのには難儀なんぎした。ダイアゴン横よこ丁ちょうには、どこにも十分の広さがなかったし、魔法省のように地下に潜もぐらせることもできん――不ふ健けん康こうなんでな。結局、ここにあるビルをなんとか手に入れた。病気の魔法使いが出入りしても、人混ひとごみに紛れてしまう所だという理屈りくつでな」
すぐそばに電気製品をぎっしり並べた店があった。そこに入ることだけで頭が一杯の買物客に呑のまれて逸はぐれてしまわないようにと、ムーディはハリーの肩をつかんだ。
「ほれ、そこだ」まもなくムーディが言った。
赤レンガの、流りゅう行こう遅おくれの大きなデパートの前に着いていた。 パージ・アンド・ダウズ 商しょう会かい と書いてある。みすぼらしい、しょぼくれた雰ふん囲い気きの場所だ。ショーウィンドウには、あちこち欠けたマネキンが数体、曲がった鬘かつらをつけて、少なくとも十年ぐらい流行遅れの服を着て、てんでんばらばらに立っている。埃ほこりだらけのドアというドアには大きな看板かんばんが掛かかり、「改装かいそうのため閉へい店てん中ちゅう」と書いてある。ビニールの買物袋をたくさん抱えた大柄おおがらな女性が、通りすがりに友達に話しかけるのを、ハリーははっきりと聞いた。
「一度も開あいてたことなんかないわよ、ここ」
「さてと」トンクスが、みんなにショーウィンドウのほうに来るように合図した。ことさら醜みにくいマネキン人形が一体飾かざられている場所だ。つけ睫まつげが取れかかってぶら下がり、緑色のナイロンのエプロンドレスを着ている。「みんな、準備オッケー」
みんながトンクスの周りに集まって頷うなずいた。ムーディがハリーの肩けん甲こう骨こつの間あたりを押し、前に出るように促うながした。トンクスはウィンドウのガラスに近寄り、息でガラスを曇らせながら、ひどく醜みにくいマネキンを見上げて声をかけた。
「こんちわ。アーサー・ウィーズリーに面会に来たんだけど」
ガラス越しにそんなに低い声で話してマネキンに聞こえると思うなんて、トンクスはどうかしているとハリーは思った。トンクスのすぐ後ろをバスがガタガタ走っているし、買物客で一いっ杯ぱいの通りはやかましかった。そのあと、そもそもマネキンに聞こえるはずがないと気がついた。次の瞬しゅん間かん、ハリーはショックで口があんぐり開いた。マネキンが小さく頷うなずき、節ふしに継つぎ目のある指で手招てまねきしたのだ。トンクスはジニーとウィーズリーおばさんの肘ひじをつかみ、ガラスをまっすぐ突つき抜けて姿を消した。