腰が曲がり、耳に補ほ聴ちょうトランペットをつけた年寄り魔法使いが、足を引きずりながら列の先頭に進み出て、ゼイゼイ声で言った。「ブロデリック・ボードに面会に来たんじゃが」
「49号室。でも、会ってもむだだと思いますよ」案内魔女がにべもなく言った。「完全に錯乱さくらんしてますからね――まだ自分は急きゅう須すだと思い込こんでいます。次」
困り果てた顔の魔法使いが、幼おさない娘の足首をしっかりつかんで進み出た。娘はロンパースの背中を突つき抜けて生はえ出ている大きな翼つばさをパタパタさせ、父親の頭の周りを飛び回っている。
「五階」案内魔女が、何も聞かずにうんざりした声で言った。父親は、変な形の風船のような娘を手に持って、デスク脇わきの両開きの扉とびらから出て行った。「次」
ウィーズリーおばさんがデスクの前に進み出た。
「こんにちは。夫のアーサー・ウィーズリーが、今朝、別の病びょう棟とうに移ったと思うんですけど、どこでしょうか――」
「アーサー・ウィーズリーね」案内魔女が、長いリストに指を走らせながら聞き返した。
「ああ、二階よ。右側の二番目のドア。ダイ・ルウェリン病棟」
「ありがとう」おばさんが礼を言った。「さあ、みんないらっしゃい」
おばさんについて、全員が両開きの扉から入った。その向こうは細長い廊下ろうかで、有名な癒者いしゃの肖しょう像ぞう画ががずらりと並び、蝋燭ろうそくの詰つまったクリスタルの球が、巨大なシャボン玉のようにいくつも天井に浮かんでいた。一行いっこうは、ライム色のローブを着た魔法使いや魔女が大勢出入りしている扉の前をいくつか通り過ぎた。ある扉の前には、いやな臭いの黄色いガスが廊下に流れ出していた。ときどき、遠くから悲しげな泣き声が聞こえてきた。一行は階段を上り、「生せい物ぶつ性せい傷しょう害がい」の階に出た。右側の二番目のドアに何か書いてある。 「危険な野郎」ダイ・ルウェリン 記き念ねん病びょう棟とう――重じゅう篤とくな噛かみ傷きず その横に、真しん鍮ちゅうの枠わくに入った手書きの名札があった。
担当癒師たんとういし ヒポクラテス・スメスウィック
研修癒けんしゅうい オーガスタス・パイ
「私たちは外で待ってるわ、モリー」トンクスが言った。「大勢でいっぺんにお見み舞まいしたら、アーサーにもよくないし……最初は家族だけにすべきだわ」
マッド‐アイも賛成と唸うなり、廊下の壁かべに寄り掛かかり、魔法の目を四し方ほう八はっ方ぽうにぐるぐる回した。ハリーも身を引いた。しかし、ウィーズリーおばさんがハリーに手を伸ばし、ドアから押し込んだ。「ハリー、遠えん慮りょなんかしないで。アーサーがあなたにお礼を言いたいの」