ダンブルドアがハリーと目を合わせなくなったのは、そのせいだったのか ハリーの目の中から、ヴォルデモートの目が見つめると思ったのだろうか もしかしたら、鮮あざやかな緑の目が、突然真まっ赤かになり、猫の目のように細い瞳孔どうこうが現れることを恐れたのだろうか かつてクィレル教きょう授じゅの後頭部から、ヴォルデモートの蛇へびのような顔が突つき出したことをハリーは思い出し、自分の後頭部を撫なでた。ヴォルデモートの顔が自分の頭蓋ずがいから飛び出したら、どんな感じがするのだろう。
ハリーは、自分が致ち死し的てきな黴菌ばいきんの保ほ菌きん者しゃのような、穢けがれた汚らしい存在に感じられた。心も体もヴォルデモートに汚けがされていない清潔せいけつで無む垢くな人たちと、病院から帰る地下鉄で席を並べるのにふさわしくない自分……。僕は蛇を見ただけじゃなかった。蛇自身じしんだったんだ。ハリーはいまそれを知った……。
それから、本当にぞっとするような考えが浮かんだ。心の表面にぽっかり浮かび上がってきた記憶きおくが、ハリーの内臓ないぞうを蛇のようにのた打ち回らせた。
「配下はいか以外に、何を」
「極秘ごくひにしか手に入らないものだ……武器のようなものというかな。前の時には持っていなかったものだ」
僕が武器なんだ。暗いトンネルを通る地下鉄に揺ゆられながら、そう考えると、血管に毒を注ぎ込こまれ、体が凍こおって冷ひや汗の噴ふき出る思いだった。ヴォルデモートが使おうとしているのは、僕だ。だから僕の行くところはどこにでも護衛ごえいがついていたんだ。僕を護まもるためじゃない。みんなを護るためなんだ。だけど、うまくいっていない。ホグワーツでは、四し六ろく時じ中ちゅう僕に誰かを張りつけておくわけにはいかないし……僕はたしかに、昨夜ウィーズリー氏を襲おそった。僕だったんだ。ヴォルデモートが僕にやらせた。それに、今のいまも、あいつは僕の中にいて、僕の考え事を聞いているかもしれない。
「ハリー、大だい丈じょう夫ぶ」暗いトンネルを電車がガタゴトと進む中、ウィーズリーおばさんが、ジニーの向こう側からハリーのほうに身を乗り出し、小声で話しかけた。「顔色があんまりよくないわ。気分が悪いの」
みんながハリーを見ていた。ハリーは激はげしく首を振り、住じゅう宅たく保ほ険けんの広告をじっと見つめた。