ハリーの癇かん癪しゃくが、丈たけの高い草むらから蛇へびが鎌首かまくびをもたげるように迫せり上がってきた。ハリーは疲れ果て、どうしようもなく混乱こんらんしていた。この十二時間の間に、恐きょう怖ふを、安堵あんどを、そしてまた恐怖を経験したのに、それでもまだ、ダンブルドアは僕と話そうとはしない
「それじゃ、たったそれだけ」ハリーは大声を出した。「『動くな』だって 僕が吸魂鬼ディメンターに襲おそわれたあとも、みんなそれしか言わなかった ハリーよ、大人おとなたちが片かたづける間、ただ動かないでいろ ただし、君には何も教えてやるつもりはない。君のちっちゃな脳みそじゃ、とても対処たいしょできないだろうから」
「いいか」フィニアス・ナイジェラスが、ハリーよりも大声を出した。「これだから、私は教師をしていることが身震みぶるいするほどいやだった 若いやつらは、何でも自分が絶対に正しいと、鼻持はなもちならん自信を持つ。思い上がりの哀あわれなお調ちょう子し者ものめ。ホグワーツの校長が、自分の企くわだてをいちいち詳しょう細さいに明かさないのは、たぶん歴れっきとした理由があるのだと、考えてみたかね 不当な扱あつかいだと感じる暇ひまがあったら、どうして、ダンブルドアの命令に従った結果、君に危害きがいが及んだことなど一度もないとは考えようとしない いや、いや、君もほかの若い連中と同様、自分だけが感じたり考えたりしていると信じ込んでいるのだろう。自分だけが危険を認識にんしきできるし、自分だけが賢かしこくて闇やみの帝てい王おうの企くわだてを理解できるのだと――」
「それじゃ、あいつが僕のことで何か企ててるんだね」ハリーがすかさず聞いた。
「そんなことを言ったかな」
フィニアス・ナイジェラスは絹きぬの手袋をもてあそびながら嘯うそぶいた。
「さてと、失礼しよう。思し春しゅん期きの悩なやみなど聞くより、大事な用事があるのでね……さらば」
フィニアスは、ゆっくりと額縁がくぶちのほうに歩いて行き、姿を消した。
「ああ、勝手に行ったらいい」ハリーは空からの額に向かって怒ど鳴なった。「ダンブルドアに、何にも言ってくれなくてありがとうって伝えて」