その日の午前中、ハリー以外のみんなはクリスマスの飾かざりつけをした。シリウスがこんなに上じょう機き嫌げんなのを、ハリーは見たことがなかった。クリスマス・ソングまで歌っている。クリスマスを誰かと一いっ緒しょに過ごせることが、うれしくてたまらない様子だ。下の階から、ハリーが一人座っている寒々さむざむとした客きゃく間ままで、床を通してシリウスの歌声が響ひびいてきた。空がだんだん白くなり、雪ゆき模も様ように変わるのを窓から眺ながめながら、ハリーは自じ虐ぎゃく的てきな満足感に浸ひたっていた。どうせみんな、僕のことを話しているに違いない。僕は、みんなが僕のことを話す機会きかいを作ってやってるんだ。昼食どき、ウィーズリーおばさんが、下の階からやさしくハリーの名前を呼ぶのが聞こえたが、ハリーはもっと上の階に引ひっ込こんで、おばさんを無む視しした。
夕方六時ごろ、玄げん関かんの呼よび鈴りんが鳴り、ブラック夫人がまたしても叫さけびはじめた。マンダンガスか、誰か騎き士し団だんのメンバーが来たのだろうと思い、ハリーは、バックビークの部屋の壁かべに寄より掛かかり、より楽な姿勢で落ち着いた。ハリーはそこに隠れ、ヒッポグリフにネズミの死骸しがいをやりながら、自分の空腹くうふくを忘れようとしていた。それから数分後、誰かがドアを激はげしく叩たたく音がして、ハリーは不ふ意いを衝つかれた。
「そこにいるのはわかってるわ」ハーマイオニーの声だ。「お願い、出てきてくれない 話があるの」
「なんで、君がここに」
ハリーはドアをぐいと引いて開けた。バックビークは、食いこぼしたかもしれないネズミのかけらを漁あさって、また藁敷わらじきの床をひっ掻かきはじめた。
「パパやママと一緒に、スキーに行ってたんじゃないの」
「あのね、ほんとのことを言うと、スキーって、どうも私の趣味しゅみじゃないのよ」ハーマイオニーが言った。「それで、ここでクリスマスを過ごすことにしたの」
ハーマイオニーの髪かみには雪がついていたし、頬ほおは寒さで紅あかくなっていた。
「でも、ロンには言わないでね。ロンがさんざん笑うから、スキーはとってもおもしろいものだって、そう言ってやったの。パパもママもちょっとがっかりしてたけど、私、こう言ったの。試験しけんに真剣しんけんな生徒は全部ホグワーツに残って勉強するって。二人とも私にいい成績せいせきを取ってほしいから、納得なっとくしてくれるわ。とにかく――」ハーマイオニーは元気よく言った。「あなたの部屋に行きましょう。ロンのママが部屋に火を焚たいてくれたし、サンドイッチも届けてくださったわ」