「そうね、あなた、自分のやったことを全部思い出せる」ジニーが聞いた。「何をしようとしていたのか思い出せない、大きな空白期間がある」
ハリーは必死で考えた。
「ない」ハリーが答えた。
「それじゃ、『例のあの人』はあなたに取り憑いたことはないわ」ジニーは事こともなげに言った。「あの人が私に取り憑いたときは、私、何時間も自分が何をしていたか思い出せなかったの。どうやって行ったのかわからないのに、気がつくとある場所にいるの」
ハリーはジニーの言うことがとうてい信じられないような気持だったが、思わず気分が軽くなっていた。
「でも、僕の見た、君のパパと蛇へびの夢は――」
「ハリー、あなた、前にもそういう夢を見たことがあったわ」ハーマイオニーが言った。「先学期、ヴォルデモートが何を考えているかが突然閃ひらめいたことがあったでしょう」
「こんどのは違う」ハリーが首を横に振りながら言った。「僕は蛇の中にいた。僕自身が蛇みたいだった……。ヴォルデモートが僕をロンドンに運んだんだとしたら――」
「まあ、そのうち」ハーマイオニーががっかりしたような声を出した。「あなたも読むときが来るかもしれないわね、『ホグワーツの歴史れきし』を。そしたらたぶん思い出すと思うけど、ホグワーツの中では『姿すがた現あらわし』も『姿くらまし』もできないの。ハリー、ヴォルデモートだって、あなたを寮りょうから連れ出して飛ばせるなんてことはできないのよ」
「君はベッドを離はなれてないぜ、おい」ロンが言った。「僕、君が眠りながらのた打ち回っているのを見たよ。僕たちが叩たたき起こすまで少なくとも一分ぐらい」
ハリーは考えながら、また部屋の中を往いったり来きたりしはじめた。みんなが言っていることは、単に慰なぐさめになるばかりでなく、理屈りくつが通っている。……ほとんど無む意い識しきに、ハリーはベッドの上に置かれた皿からサンドイッチを取り、ガツガツと口に詰つめ込こんだ。
結けっ局きょくぼくは武ぶ器きじゃないんだ、とハリーは思った。幸福な、ほっとした気持が胸を膨ふくらませた。シリウスがバックビークの部屋に行くのに、クリスマス・ソングの替かえ歌うたを大声で歌いながら、ハリーたちのいる部屋の前を足音も高く通り過ぎて行った。
「♪世のヒッポグリフ忘るな、ゴッド・レスト・ユー・メリー・ジェントルマンクリスマスは……」。ハリーは一いっ緒しょに歌いたい気分だった。