「メリー・クリスマス」ジョージが言った。「しばらくは下に行くなよ」
「どうして」ロンが聞いた。
「ママがまた泣いてるんだ」フレッドが重苦しい声で言った。「パーシーがクリスマス・セーターを送り返してきやがった」
「手紙もなしだ」ジョージがつけ加えた。「パパの具合はどうかと聞きもしないし、見み舞まいにも来ない」
「俺おれたち、慰なぐさめようと思って」フレッドがハリーの持っている絵を覗のぞき込こもうと、ベッドを回り込みながら言った。「それで、『パーシーなんか、バカでっかいネズミの糞クソの山』だって言ってやった」
「効きき目めなしさ」ジョージが蛙かえるチョコレートを勝手に摘つまみながら言った。「そこでルーピンと選手交代だ。ルーピンに慰めてもらって、それから朝食に下りて行くほうがいいだろうな」
「ところで、これは何のつもりかな」フレッドが目を細めてドビーの絵を眺ながめた。「目の周りが黒いテナガザルってとこかな」
「ハリーだよ」ジョージが絵の裏うらを指差した。「裏にそう書いてある」
「似てるぜ」フレッドがにやりとした。ハリーは真新しい「宿しゅく題だい計画けいかく帳」をフレッドに投げつけたが、計画帳はその後ろの壁かべに当たって床に落ち、楽しそうな声で言った。
「爪つめにツメなし瓜うりにツメあり。最後の仕上げが終ったら、何でも好きなことをしていいわ」
みんな起き出して着き替がえをすませた。家の中でいろいろな人が互いに「メリー・クリスマス」と挨あい拶さつしているのが聞こえた。階段を下りる途と中ちゅうでハーマイオニーに出会った。
「ハリー、本をありがとう」ハーマイオニーがうれしそうに言った。「あの『新しん数すう霊れい術じゅつ理り論ろん』の本、ずっと読みたいと思っていたのよ それから、ロン、あの香水こうすい、ほんとにユニークだわ」
「どういたしまして」ロンが言った。「それ、いったい誰のためだい」
ロンはハーマイオニーが手にしている、きちんとした包みを顎あごで指した。
「クリーチャーよ」ハーマイオニーが明るく言った。
「まさか服じゃないだろうな」ロンが咎とがめるように言った。「シリウスが言ったこと、わかってるだろう 『クリーチャーは知りすぎている。自由にしてやるわけにはいかない』」
「服じゃないわ」ハーマイオニーが言った。「もっとも、私なら、あんな汚らしいボロ布きれよりはましなものを身に着けさせるけど。ううん、これ、パッチワークのキルトよ。クリーチャーの寝室しんしつが明るくなると思って」
「寝室って」ちょうどシリウスの母親の肖しょう像ぞう画がの前を通るところだったので、ハリーは声を落として囁ささやいた。
「まあね、シリウスに言わせると、寝室なんてものじゃなくて、いわば――巣穴すあなだって」ハーマイオニーが答えた。「クリーチャーは、厨ちゅう房ぼう脇わきの納戸なんどにあるボイラーの下で寝ているみたいよ」
地下の厨房に着いたときには、ウィーズリーおばさんしかいなかった。竈かまどのところに立って、みんなに「メリー・クリスマス」と挨あい拶さつしたおばさんの声は、まるで鼻はな風か邪ぜを引いているようだった。みんなはおばさんの目を見ないようにした。
「それじゃ、ここがクリーチャーの寝床ねどこ」
ロンは食しょく料りょう庫こと反対側の角にある薄うす汚ぎたない戸までゆっくり歩いて行った。