ハリーはその戸が開いているのを見たことがなかった。
「そうよ」ハーマイオニーは少しピリピリしながら言った。「あ……ノックしたほうがいいと思うけど」
ロンは拳こぶしでコツコツ戸を叩たたいたが、返事はなかった。
「上の階をこそこそうろついてるんだろ」ロンはいきなり戸を開けた。「ウエッ」
ハリーは中を覗のぞいた。納戸なんどの中は、旧きゅう式しきの大型ボイラーでほとんど一いっ杯ぱいだったが、パイプの下の隙間すきまに、クリーチャーがなんだか巣すのようなものをこしらえていた。床にボロ布きれやぷんぷん臭う古ふる毛もう布ふがごたごたに寄せ集められて、積み上げられている。その真ん中に小さな凹へこみがあり、クリーチャーが毎晩まいばんどこで丸まって寝るのかを示していた。ごたごたのあちこちに、腐くさったパン屑くずや黴かびの生はえた古いチーズのかけらが見える。一番奥の隅すみには、コインや小物が光っている。シリウスが館やかたから放ほうり出したものを、クリーチャーが泥棒どろぼうカササギのように集めていたのだろうと、ハリーは思った。夏休みにシリウスが捨すてた、銀の額入がくいりの家族写真も、クリーチャーはなんとか回かい収しゅうしていた。ガラスは壊こわれていても、白黒写真の人物たちは、高慢こうまんちきな顔でハリーを見上げていた。その中に――ハリーは胃袋がざわっとした――黒くろ髪かみの、腫はれぼったい瞼まぶたの魔女もいる。ハリーが、ダンブルドアの「憂うれいの篩ふるい」で裁判を傍ぼう聴ちょうしたときに見た、ベラトリックス・レストレンジだ。どうやら、この写真はクリーチャーのお気に入りらしく、他の写真の一番前に置き、スペロテープで不器用にガラスを貼はり合わせていた。
「プレゼントをここに置いておくだけにするわ」ハーマイオニーはボロと毛布の凹みの真ん中にきちんと包みを置き、そっと戸を閉めた。「あとで見つけるでしょう。それでいいわ」
「そう言えば」納戸を閉めたとき、ちょうどシリウスが、食料庫から大きな七面鳥を抱えて現れた。「近ごろ誰かクリーチャーを見かけたかい」
「ここに戻ってきた夜に見たきりだよ」ハリーが言った。「シリウスおじさんが、厨ちゅう房ぼうから出ていけって、命令してたよ」
「ああ……」シリウスが顔をしかめた。「わたしも、あいつを見たのはあのときが最後だ……。上の階のどこかに隠れているに違いない」
「出て行っちゃったってことはないよね」ハリーが言った。「つまり、『出ていけ』って言ったとき、この館から出て行けという意味に取ったのかなあ」
「いや、いや、屋敷やしきしもべ妖よう精せいは、衣服いふくをもらわないかぎり出て行くことはできない。主人の家に縛しばりつけられているんだ」シリウスが言った。
「本当にそうしたければ、家を出ることができるよ」ハリーが反論はんろんした。「ドビーがそうだった。三年前、僕に警告けいこくするためにマルフォイの家を離はなれたんだ。あとで自分を罰ばっしなければならなかったけど、とにかくやってのけたよ」
シリウスは一いっ瞬しゅんちょっと不安そうな顔をしたが、やがて口を開いた。「あとであいつを探すよ。どうせ、どこか上の階で、僕の母親の古いブルマーか何かにしがみついて目を泣き腫はらしているんだろう。もちろん、乾かん燥そう用よう戸と棚だなに忍しのび込こんで死んでしまったということもありうるが……まあ、そんなに期待しないほうがいいだろうな」
フレッド、ジョージ、ロンは笑ったが、ハーマイオニーは非難ひなんするような目つきをした。