「あなたのおっしゃりたいのは」ウィーズリーおばさんの声は、一語一語大きくなっていった。みんなが慌あわてふためいて避難ひなんしていくのには、どうやらまったく気づいていない。「マグル療法でバカなことをやっていたというわけ」
「モリーや、バカなことじゃないよ」ウィーズリーおじさんがすがるように言った。「なんと言うか――パイと私とで試ためしてみたらどうかと思っただけで――ただ、まことに残念ながら――まあ、この種の傷には――私たちが思っていたほどには効きかなかったわけで――」
「つまり」
「それは……その、おまえが知っているかどうか、あの――縫合というものだが」
「あなたの皮ひ膚ふを元どおりに縫ぬい合わせようとしたみたいに聞こえますけど」ウィーズリーおばさんはちっともおもしろくありませんよという笑い方をした。「だけど、いくらあなたでも、アーサー、そこまでばかじゃないでしょう――」
「僕もお茶が飲みたいな」ハリーは急いで立ち上がった。
ハーマイオニー、ロン、ジニーも、ハリーと一いっ緒しょにほとんど走るようにしてドアまで行った。ドアが背後でパタンと閉まったとき、ウィーズリーおばさんの叫さけび声が聞こえてきた。
「だいたいそんなことだって、どういうことですか」
「まったくパパらしいわ」四人で廊下ろうかを歩きはじめたとき、ジニーが頭を振り振り言った。
「縫合ほうごうだって……まったく……」
「でもね、魔法の傷きず以外ではうまくいくのよ」ハーマイオニーが公平な意見を言った。「たぶん、あの蛇へびの毒が縫合糸を溶とかしちゃうかなんかするんだわ。ところで喫きっ茶さ室しつはどこかしら」
「六階だよ」
ハリーが、案内魔女のデスクの上に掛かかっていた案内板を思い出して言った。
両開きの扉とびらを通り廊下を歩いて行くと、頼りなげな階段があった。階段の両側に粗そ野やな顔をした癒者いしゃたちの肖しょう像ぞう画がが掛かかっている。一行いっこうが階段を上ると、その癒者たちが四人に呼びかけ、奇き妙みょうな病びょう状じょうの診断しんだんを下したり、恐ろしげな治ち療りょう法ほうを意見した。中世の魔法使いがロンに向かって、間違いなく重じゅう症しょうの黒こく斑はん病びょうだと叫んだときは、ロンは大いに腹を立てた。
「だったらどうなんだよ」
ロンが憤慨ふんがいして聞いた。その癒者は、六枚もの肖像画を通り抜け、それぞれの主あるじを押し退のけて追いかけてきていた。
「お若い方、これは非常に恐ろしい皮ひ膚ふ病びょうですぞ。痘痕あばた面づらになりますな。そして、いまよりもっとぞっとするような顔に――」
「誰に向かってぞっとする顔なんて言ってるんだ」ロンの耳が真まっ赤かになった。
「――治療法はただ一つ。ヒキガエルの肝きもを取り、首にきつく巻きつけ、満月の夜、素すっ裸ぱだかで、ウナギの目玉が詰つまった樽たるの中に立ち――」
「僕は黒斑病なんかじゃない」
「しかし、お若い方、貴殿きでんの顔面にある、その醜みにくい汚点おてんは――」
「ソバカスだよ」ロンはカンカンになった。「さあ、自分の額がくに戻れよ。僕のことはほっといてくれ」
ロンはほかの三人を振り返った。みんな必死ひっしで普通ふつうの顔をしていた。