「まあ、ギルデロイ、お客さまなのね よかったこと。しかもクリスマスの日にですもの あのね、この子には誰もお見み舞まいに来ないのよ。かわいそうに。どうしてなんでしょうね。こんなにかわい子ちゃんなのに。ねえ、坊や」
「サインをしてたんだよ」ギルデロイは癒者に向かって、またにっこりと輝かがやく歯を見せた。
「たくさんほしがってね。だめだって言えないんだ 写真が足りるといいんだけど」
「おもしろいことを言うのね」ロックハートの腕を取り、おませな二歳の子供でも見るような目で、愛いとおしそうににっこりとロックハートに微笑ほほえみかけながら、癒者が言った。「二、三年前まで、この人はかなり有名だったのよ。サインをしたがるのは、記憶きおくが戻りかけている徴しるしではないかと、私たちはそう願っているんですよ。こちらへいらっしゃいな。この子は隔かく離り病びょう棟とうにいるんですよ。私がクリスマス・プレゼントを運び込んでいる間に、抜け出したに違いないわ。普段ふだんはドアに鍵かぎが掛かかっているの……この子が危険なのじゃありませんよ でも」癒者は声を落として囁ささやいた。「この子にとって危険なの。かわいそうに……自分が誰かもわからないでしょ。ふらふら彷徨さまよって、帰り道がわからなくなるの……。本当によく来てくださったわ」
「あの」ロンが上の階を指差して、むだな抵抗ていこうを試こころみた。「僕たち、実は――えーと――」
しかし、癒者がいかにもうれしそうに四人に笑いかけたので、ロンが力なく「お茶を飲みに行くところで」というブツブツ声は、尻しりすぼみに消えていった。四人はしかたがないと顔を見合わせ、ロックハートと癒者について廊下を歩いた。
「早く切り上げようぜ」ロンがそっと言った。
癒者は「ヤヌス・シッキー病棟」と書かれたドアを杖つえで指し、「アロホモーラ」と唱となえた。ドアがパッと開き、癒者が先導せんどうして入った。ベッド脇わきの肘ひじ掛かけ椅い子すに座らせるまで、ギルデロイの腕をしっかり捕つかまえたままだった。
「ここは長期療りょう養ようの病棟なの」ハリー、ロン、ハーマイオニー、ジニーに、癒者が低い声で教えた。「呪じゅ文もん性せいの永久的損そん傷しょうのためにね。もちろん、集中的な治ち療りょう薬やくと呪文と、ちょっとした幸運で、多少は症しょう状じょうを改善かいぜんできます。ギルデロイは少し自分を取り戻したようですし、ボードさんなんかは本当によくなりましたよ。話す能力を取り戻してきたみたいですもの。でもまだ私たちにわかる言語は何も話せませんけどね。さて、クリスマス・プレゼントを配ってしまわないと。みんな、お話していてね」