「えーッ」ロンが仰ぎょう天てんしたハリーはロンの足を踏ふんづけたかったが、ローブではなくジーンズなので、そういう技わざをこっそりやり遂とげるのはかなり難しかった。「奥にいるのは、ネビル、君の父さんなの」
「何たることです」ミセス・ロングボトムの鋭するどい声が飛んだ。「ネビル、おまえは、お友達に、両親のことを話していなかったのですか」
ネビルは深く息を吸い込み、天井を見上げて首を横に振った。ハリーは、これまでこんなに気の毒どくな思いをしたことがなかった。しかし、どうやったらこの状況からネビルを助け出せるか、何も思いつかなかった。
「いいですか、何も恥はじることはありません」ミセス・ロングボトムは怒りを込めて言った。「おまえは誇ほこりにすべきです。ネビル、誇りに あのように正常な体と心を失ったのは、一人息子が親を恥はじに思うためではありませんよ。おわかりか」
「僕、恥に思ってない」
ネビルは消きえ入いるように言ったが、頑かたくなにハリーたちの目を避さけていた。ロンはいまや爪つま先さき立だちで、二つのベッドに誰がいるか覗のぞこうとしていた。
「はて、それにしては、おかしな態度たいどだこと」ミセス・ロングボトムが言った。「わたくしの息子と嫁よめは」お祖ば母あさまは、誇ほこり高く、ハリー、ロン、ハーマイオニー、ジニーの四人に向き直った。「『例のあの人』の配下はいかに、正しょう気きを失うまで拷問ごうもんされたのです」
ハーマイオニーとジニーは、あっと両手で口を押さえた。ロンはネビルの両親を覗こうと首を伸ばすのをやめ、恥はじ入った顔をした。
「二人とも『闇やみ祓ばらい』だったのですよ。しかも魔法使いの間では非常な尊敬そんけいを集めていました」ミセス・ロングボトムの話は続いた。「夫ふう婦ふ揃そろって、才能豊かでした。わたくしは――おや、アリス、どうしたのかえ」
ネビルの母親が、寝ね巻まきのまま、部屋の奥から這はうような足取りで近寄ってきた。ムーディに見せてもらった不ふ死し鳥ちょうの騎き士し団だん設立せつりつメンバーの古い写真に写る、ふっくらとした幸せそうな面影おもかげはどこにもなかった。いまやその顔は痩やせこけ、やつれ果てて、目だけが異常に大きく見えた。髪かみは白く、まばらで、死人のようだった。何か話したい様子ではなかった。いや、話すことができなかったのだろう。しかし、おずおずとした仕種しぐさで、ネビルのほうに、何かを持った手をさし伸のばした。
「またかえ」ミセス・ロングボトムは少しうんざりした声を出した。「よしよし、アリスや――ネビル、何でもいいから、受け取っておあげ」
ネビルはもう手をさし出していた。その手の中へ、母親は「よく膨ふくらむドルーブル風船ガム」の包み紙をポトリと落とした。
「まあ、いいこと」
ネビルのお祖母さまは、楽しそうな声を取り繕つくろい、母親の肩をやさしく叩たたいた。
ネビルは小さな声で、「ママ、ありがとう」と言った。