シリウスは荒々しく椅子を押し退のけ、テーブルを回り込み、杖を抜き放はなちながら、つかつかとスネイプのほうに進んだ。スネイプも自分の杖をさっと取り出した。二人は真正面から向き合った。シリウスはカンカンに怒り、スネイプはシリウスの杖つえの先から顔へと目を走らせながら、状況を読んでいた。
「シリウス」ハリーが大声で呼んだが、シリウスには聞こえないようだった。
「警告けいこくしたはずだ、スニベルス」シリウスが言った。シリウスの顔はスネイプからほんの数十センチのところにあった。「ダンブルドアが、貴様きさまが改心かいしんしたと思っていても、知ったことじゃない。わたしのほうがよくわかっている――」
「おや、それなら、どうしてダンブルドアにそう言わんのかね」スネイプが囁ささやくように言った。「それとも、何かね、母親の家に六ヵ月も隠れている男の言うことは、真剣しんけんに取り合ってくれないとでも思っているのか」
「ところで、このごろルシウス・マルフォイはどうしてるかね さぞかし喜んでいるだろうね 自分のペット犬がホグワーツで教えていることで」
「犬と言えば」スネイプが低い声で言った。「君がこの前、遠足なぞに出かける危険を冒おかしたとき、ルシウス・マルフォイが君に気づいたことを知っているかね うまい考えだったな、ブラック。安全な駅のホームで君が姿を見られるようにするとは……これで鉄壁てっぺきの口こう実じつができたわけだ。隠れ家から今後いっさい出ないという口実がね」
シリウスが杖を上げた。
「やめて」ハリーは叫さけびながらテーブルを飛び越え、二人の間に割って入ろうとした。
「シリウス、やめて」
「わたしを臆おく病びょう者もの呼ばわりするのか」シリウスは、吼ほえるように言うと、ハリーを押し退のけようとした。しかし、ハリーはてこでも動かなかった。
「まあ、そうだ。そういうことだな」スネイプが言った。
「ハリー――そこを――退どけ」シリウスは歯を剥むき出して唸うなると、空あいている手でハリーを押し退けた。
厨ちゅう房ぼうのドアが開き、ウィーズリー一家全員と、ハーマイオニーが入ってきた。みんな幸せ一いっ杯ぱいという顔で、真ん中にウィーズリーおじさんが誇ほこらしげに歩いていた。縞しまのパジャマの上に、レインコートを着ている。