数分後、「夜の騎士バス」は小さなパブの前で急停車ていしゃした。衝しょう突とつを避さけるのに、パブは身を縮ちぢめた。スタンが不幸なマダム・マーシをバスから降ろし、二階のデッキの乗客がやれやれと囁ささやく声が聞こえてきた。バスは再び動き出し、スピードを上げた。そして――
バーン。
バスは雪深いホグズミードを走っていた。脇道わきみちの奥に、ハリーはちらりとホッグズ・ヘッドを見た。イノシシの生首なまくびの看板かんばんが冬の風に揺れ、キーキー鳴っていた。雪片ゆきひらがバスの大きなフロントガラスを打った。バスはようやくホグワーツの校門前で停車した。
ルーピンとトンクスがバスからみんなの荷物を降おろすのを手伝い、それから別れを告げるために下車した。ハリーがバスをちらりと見ると、乗客全員が、三階全部の窓に鼻をぺったり押しつけて、こっちをじっと見下ろしていた。
「校庭に入ってしまえば、もう安全よ」人気ひとけのない道に油断ゆだんなく目を走らせながら、トンクスが言った。「いい新学期をね、オッケー」
「体に気をつけて」ルーピンがみんなとひと渡り握手あくしゅし、最後にハリーの番が来た。「いいかい……」他のみんながトンクスと最後の別れを交かわしている間、ルーピンは声を落として言った。「ハリー、君がスネイプを嫌っているのは知っている。だが、あの人は優ゆう秀しゅうな『閉へい心しん術じゅつ士し』だ。それに、私たち全員が――シリウスも含ふくめて――君が身を護まもる術すべを学んでほしいと思っている。だから、がんばるんだ。いいね」
「うん、わかりました」歳としのわりに多い皺しわが刻きざまれたルーピンの顔を見上げながら、ハリーが重苦しく答えた。「それじゃ、また」
六人はトランクを引きずりながら、つるつる滑すべる馬車道を城に向かって懸命けんめいに歩いた。ハーマイオニーはもう、寝る前にしもべ妖よう精せいの帽子ぼうしをいくつか編あむ話をしていた。樫かしの木の玄げん関かん扉とびらにたどり着いたとき、ハリーは後ろを振り返った。「夜の騎士ナイトバス」はもういなくなっていた。明日の夜のことを考えると、ハリーはずっとバスに乗っていたかったと、半なかばそんな気持になった。