次の日はほとんど一日中、ハリーはその晩ばんのことを恐れて過ごした。午前中に二時限続きの「魔ま法ほう薬やく」の授業があったが、スネイプはいつもどおりにいやらしく、ハリーの怯おびえた気持を和やわらげるのにはまったく役に立たなかった。しかも、ディーエイのメンバーが、授業の合間あいまに廊下ろうかで入れ替かわり立ち替わりハリーのところにやって来て、今夜会合かいごうはないのかと期待を込めて聞くので、ハリーはますます滅め入いった。
「次の会合の日程にっていが決まったら、いつもの方法で知らせるよ」ハリーは繰くり返し同じことを言った。「だけど、今夜はできない。僕――えーと――「魔法薬」の補ほ習しゅうを受けなくちゃならないんだ」
「君が、魔法薬の補習」玄関ホールで昼食後にハリーを追い詰つめたザカリアス・スミスが、バカにしたように聞き返した。「驚おどろいたな。君、よっぽどひどいんだ。スネイプは普通、補習なんてしないだろ」
こっちがイライラする陽気ようきさで、スミスがすたすた立ち去る後ろ姿を、ロンが睨にらみつけた。
「呪のろいをかけてやろうか ここからならまだ届くぜ」ロンが杖つえを上げ、スミスの肩けん甲こう骨こつの間あたりに狙ねらいをつけた。
「ほっとけよ」ハリーは悄気しょげ切って言った。「みんなきっとそう思うだろ 僕がよっぽどバ――」
「あら、ハリー」背後で声がした。振り返ると、そこにチョウが立っていた。
「ああ」ハリーの胃袋が、気持の悪い飛び上がり方をした。「やあ」
「私たち、図書室に行ってるわ」ハーマイオニーがきっぱり言いながら、ロンの肘ひじの上のあたりをひっつかみ、大だい理り石せきの階段のほうへ引きずって行った。
「クリスマスは楽しかった」チョウが聞いた。
「うん、まあまあ」ハリーが答えた。
「私のほうは静かだったわ」チョウが言った。なぜか、チョウはかなりもじもじしていた。
「あの……来月またホグズミード行きがあるわ。掲示けいじを見た」
「え あ、いや。帰ってからまだ掲示板を見てない」
「そうなのよ。バレンタインデーね……」
「そう」ハリーは、なぜチョウがそんなことを自分に言うのだろうと訝いぶかった。「えーと、たぶん君は――」
「あなたがそうしたければだけど」チョウが熱を込めて言った。
ハリーは目を見開いた。いま言おうとしたのは、「たぶん君は、次のディーエイの会合かいごうがいつなのか知りたいんだろう」だった。しかし、チョウの受け答えはどうもちぐはぐだ。
「僕――えー――」
「あら、そうしたくないなら、別にいいのよ」チョウは傷きずついたような顔をした。「気にしないで。私――じゃ、またね」
チョウは行ってしまった。ハリーはその後ろ姿を見つめ、脳みそを必死で回転させながら突つっ立っていた。すると、何かがポンと当てはまった。
「チョウ おーい――チョウ」ハリーはチョウを追いかけ、大だい理り石せきの階段の中ほどで追いついた。「えーと――バレンタインデーに、僕と一いっ緒しょにホグズミードに行かないか」
「えぇぇ、いいわ」チョウは真まっ赤かになってハリーににっこり笑いかけた。
「そう……じゃ……それで決まりだ」ハリーは今日一日がまったくのむだではなかったという気がした。午後の授業の前に、ロンとハーマイオニーを迎むかえに図書室に行くとき、ハリーはほとんど体が弾はずんでいた。