「でも、どうしてダンブルドア先生はそれをやめさせたいんですか」ハリーが唐突とうとつに聞いた。「僕だってこんなの好きじゃない。でも、これまで役に立ったじゃありませんか つまり……僕は蛇へびがウィーズリー氏を襲おそうのを見た。もし僕が見なかったら、ダンブルドア先生はウィーズリー氏を助けられなかったでしょう 先生」
スネイプは、相変わらず指を唇に這はわせながら、しばらくハリーを見つめていた。やがて口を開いたスネイプは、一言一言、言葉の重みを計はかるかのように、考えながら話した。
「どうやら、ごく最近まで、闇の帝王は君との間の絆に気づいていなかったらしい。いままでは、君が帝王の感情を感じ、帝王の思考を共有したが、帝王のほうはそれに気づかなかった。しかし、君がクリスマス直前に見た、あの幻覚げんかくは……」
「蛇とウィーズリー氏の」
「口を挟はさむな、ポッター」スネイプは険悪けんあくな声で言った。「いま言ったように、君がクリスマス直前に見たあの幻覚は、闇の帝王の思考にあまりに強く侵しん入にゅうしたということであり――」
「僕が見たのは蛇の頭の中だ、あの人のじゃない」
「ポッター、口を挟むなと、いま言ったはずだが」
しかし、スネイプが怒ろうが、ハリーはどうでもよかった。ついに問題の核心かくしんに迫せまろうとしているように思えた。ハリーは座ったままで身を乗り出し、自分でも気づかずに、まるでいまにも飛び立ちそうな緊きん張ちょうした姿勢で、椅子の端に腰掛こしかけていた。
「僕が共有しているのがヴォルデモートの考えなら、どうして蛇へびの目を通して見たんですか」
「闇やみの帝てい王おうの名前を言うな」スネイプが吐はき出すように言った。
いやな沈ちん黙もくが流れた。二人は「憂うれいの篩ふるい」を挟はさんで睨にらみ合った。
「ダンブルドア先生は名前を言います」ハリーが静かに言った。
「ダンブルドアは極きわめて強力な魔法使いだ」スネイプが低い声で言った。「あの方かたなら名前を言っても安心していられるだろうが……その他の者は……」
スネイプは左の肘ひじの下あたりを、どうやら無意識にさすった。そこには、皮ひ膚ふに焼きつけられた闇の印があることを、ハリーは知っていた。
「僕はただ、知りたかっただけです」ハリーは、丁寧ていねいな声に戻すように努力した。「なぜ――」
「君は蛇の心に入り込んだ。なぜなら、闇の帝王があのときそこにいたからだ」スネイプが唸うなるように言った。「あのとき、帝王は蛇に取とり憑ついていた。それで君も蛇の中にいる夢を見たのだ」
「それで、ヴォル――あの人は――僕があそこにいたのに気づいた」
「そうらしい」スネイプが冷たく言った。
「どうしてそうだとわかるんですか」ハリーが急せき込んで聞いた。「ダンブルドア先生がそう思っただけなんですか それとも――」
「言ったはずだ」スネイプは姿勢も崩くずさず、目を糸のように細めて言った。「我わが輩はいを『先生』と呼べと」
「はい、先生」ハリーは待ち切れない思いで聞いた。「でも、どうしてそうだとわかるんですか――」