「そうだとわかっていれば、それでよいのだ」スネイプが押さえつけるように言った。「重要なのは、闇の帝王が、自分の思考や感情に君が入り込めるということに、いまや気づいているということだ。さらに、帝王は、その逆も可能だと推すい量りょうした。つまり、逆に帝王が君の思考や感情に入り込める可能性があると気づいてしまった――」
「それで、僕に何かをさせようとするかもしれないんですか」ハリーが聞いた。「先生」ハリーは慌あわててつけ加えた。
「そうするかもしれぬ」スネイプは冷たく、無む関かん心しんな声で言った。「そこで『閉へい心しん術じゅつ』に話を戻す」
スネイプはローブのポケットから杖つえを取り出し、ハリーは座ったままで身を固くした。しかし、スネイプは単に自分のこめかみまで杖を上げ、脂あぶらっこい髪かみの根元に杖つえ先さきを押し当てただけだった。杖を引き抜くと、こめかみから杖先まで何やら銀色のものが伸びていた。太い蜘く蛛もの糸のようなもので、杖を糸から引き離はなすと、それは「憂いの篩」にふわりと落ち、気体とも液体えきたいともつかない銀ぎん白はく色しょくの渦うずを巻いた。さらに二度、スネイプはこめかみに杖つえを当て、銀色の物質を石の水すい盆ぼんに落とした。それから、一言も自分の行動を説明せず、スネイプは「憂うれいの篩ふるい」を慎しん重ちょうに持ち上げて邪魔じゃまにならないように棚たなに片かたづけ、杖を構かまえてハリーと向き合った。
「立て、ポッター。そして、杖を取れ」
ハリーは、落ち着かない気持で立ち上がった。二人は机を挟はさんで向かい合った。
「杖を使い、我わが輩はいを武ぶ装そう解かい除じょするもよし、そのほか、思いつくかぎりの方法で防ぼう衛えいするもよし」スネイプが言った。
「それで、先生は何をするんですか」ハリーはスネイプの杖を不安げに見つめた。
「君の心に押し入ろうとするところだ」スネイプが静かに言った。「君がどの程てい度ど抵てい抗こうできるかやってみよう。君が『服ふく従じゅうの呪のろい』に抵抗する能力を見せたことは聞いている。これにも同じような力が必要だということがわかるだろう……。構えるのだ。いくぞ。
『開心かいしん レジリメンス』」