「『神秘部』には何があるんですか」
「何と言った」スネイプが低い声で言った。なんとうれしいことに、スネイプがうろたえているのがわかった。
「『神秘部』には何があるんですか、と言いました。先生」
「何故なにゆえ」スネイプがゆっくりと言った。「そんなことを聞くのだ」
「それは」ハリーはスネイプの反応はんのうをじっと見ながら言った。「いま僕が見たあの廊下は――この何ヵ月も僕の夢に出てきた廊下です――それがたったいま、わかったんです――あれは、『神秘部』に続く廊下です……そして、たぶんヴォルデモートの望みは、そこから何かを――」
「闇やみの帝てい王おうの名前を言うなと言ったはずだ」
二人は睨にらみ合った。ハリーの傷きず痕あとがまた焼けるように痛んだ。しかし気にならなかった。スネイプは動揺どうようしているようだった。しかし、再び口を開いたスネイプは、努めて冷静れいせいに、無む関かん心しんを装よそおっているような声で言った。
「ポッター、『神しん秘ぴ部ぶ』にはさまざまな物がある。君に理解できるような物はほとんどないし、また関係のある物は皆無かいむだ。これで、わかったか」
「はい」ハリーは痛みの増してきた傷痕をさすりながら答えた。
「水曜の同どう時じ刻こくに、またここに来るのだ。続きはそのときに行う」
「わかりました」ハリーは早くスネイプの部屋を出て、ロンとハーマイオニーを探したくてうずうずしていた。
「毎晩まいばん寝る前、心からすべての感情を取り去るのだ。心を空からにし、無にし、平静へいせいにするのだ。わかったな」
「はい」ハリーはほとんど聞いていなかった。
「警告けいこくしておくが、ポッター……。訓練を怠おこたれば、我わが輩はいの知るところとなるぞ……」
「ええ」ハリーはボソボソ言った。カバンを取り、肩に引ひっ掛かけ、ハリーはドアへと急いだ。ドアを開けるとき、ちらりと後ろを振り返ると、スネイプはハリーに背を向け、杖つえ先さきで「憂うれいの篩ふるい」から自分の想おもいをすくい上げ、注意深く自分の頭に戻していた。ハリーは、それ以上何も言わず、ドアをそっと閉めた。傷痕はまだズキズキと痛んでいた。