しかし、談話室は満員で、笑い声や興こう奮ふんした甲高かんだかい声で溢あふれていた。フレッドとジョージが「悪戯いたずら専せん門もん店てん」の最近の商品を試ためして見せていたのだ。
「首なし帽子ぼうし」ジョージが叫さけんだ。フレッドが、見物人の前で、ピンクのふわふわした羽飾はねかざりがついた三角帽子を振って見せた。「一個二ガリオンだよ。さあ、フレッドをご覧らんあれ」
フレッドがにっこり笑って帽子をさっと被かぶった。一いっ瞬しゅん、バカバカしい格好かっこうに見えたが、次の瞬しゅん間かん、帽子も首も消えた。女子学生が数人、悲鳴ひめいを上げたが、他のみんなは大笑いしていた。
「はい、帽子を取って」ジョージが叫んだ。するとフレッドの手が、肩かたの上あたりの何にもないように見えるところをもぞもぞ探さぐった。そして、首が再び現れ、脱ぬいだピンクの羽飾り帽子を手にしていた。
「あの帽子、どういう仕し掛かけなのかしら」フレッドとジョージを眺ながめながら、ハーマイオニーは、一瞬宿題から気を逸そらされていた。「つまり、あれは一種の『透とう明めい呪じゅ文もん』には違いないけど、呪文をかけた物の範囲はんいを越えたところまで『透明の場』を延えん長ちょうするっていうのは、かなり賢かしこいわ……呪じゅ文もんの効きき目があまり長持ちしないとは思うけど」
ハリーは何も言わなかった。気分が悪かった。
「この宿題、明日やるよ」ハリーは取り出したばかりの本をまたカバンに押し込みながら、ボソボソ言った。
「ええ、それじゃ、『宿しゅく題だい計けい画かく帳ちょう』に書いておいてね」ハーマイオニーが勧すすめた。「忘れないために」
ハリーとロンが顔を見合わせた。ハリーはバッグに手を突っ込み、「計画帳」を引っ張り出し、開くともなく開いた。
「あとに延のばしちゃダメになる それじゃ自分がダメになる」
ハリーがアンブリッジの宿題をメモすると、「計画帳」がたしなめた。ハーマイオニーが「計画帳」に満足げに笑いかけた。
「僕、もう寝るよ」ハリーは「計画帳」をカバンに押し込みながら、チャンスがあったらこいつを暖炉だんろに放ほうり込もうと心に刻きざんだ。
ハリーは、「首なし帽子ぼうし」を被かぶせようとするジョージをかわして、談だん話わ室しつを横切り、男だん子し寮りょうに続くひんやりと安らかな石の階段にたどり着いた。また吐はき気がした。蛇へびの姿を見た夜と同じような感じだった。しかし、ちょっと横になれば治なおるだろう、と思った。