「僕たち、どうして『悪魔の罠』だって気づかなかったんだろう 前に一度見てるのに……こんな事件、僕たちが防げたかもしれないのに」
「『悪魔あくまの罠わな』が鉢植はちうえになりすまして、病院に現れるなんて、誰が予想できる」ロンがきっぱり言った。「僕たちの責任じゃない。誰だか知らないけど、送ってきたやつが悪いんだ 自分が何を買ったのかよく確かめもしないなんて、まったく、バカじゃないか」
「まあ、ロン、しっかりしてよ」ハーマイオニーが身震みぶるいした。「『悪魔の罠』を鉢植えにしておいて、触ふれるものを誰彼だれかれかまわず絞しめ殺すとは思わなかった、なんていう人がいると思う これは――殺人よ……しかも巧こう妙みょうな手口の……鉢植えの贈おくり主ぬしが匿名とくめいだったら、誰が殺やったかなんて、絶対わかりっこないでしょう」
ハリーは「悪魔の罠」のことを考えてはいなかった。尋じん問もんの日に、エレベーターで地下九階まで下りたときのことを思い出していた。あのとき、アトリウムの階から乗り込んできた、土つち気け色いろの顔の魔法使いがいた。
「僕、ボードに会ってる」ハリーはゆっくりと言った。「君のパパと一いっ緒しょに、魔法省でボードを見たよ」
ロンがあっと口を開けた。
「僕、パパが家でボードのことを話すのを聞いたことがある。『無む言ごん者しゃ』だって――『神しん秘ぴ部ぶ』に勤めてたんだ」
三人は一いっ瞬しゅん顔を見合わせた。それから、ハーマイオニーが新聞を自分のほうに引き寄せてたたみ直し、一面の十人の脱走だっそうした死し喰くい人びとたちの写真を一瞬睨にらみつけたが、やがて勢いよく立ち上がった。
「どこに行く気だ」ロンがびっくりした。
「手紙を出しに」ハーマイオニーはカバンを肩に放ほうり上げながら言った。「これって……うーん、どうかわからないけど……でも、やってみる価値はあるわね。……それに、私にしかできないことだわ」
「まーたこれだ、いやな感じ」ハリーと二人でテーブルから立ち上がり、ハーマイオニーよりはゆっくりと大広間を出ながら、ロンがぶつくさ言った。「いったい何をやるつもりなのか、一度ぐらい教えてくれたっていいじゃないか 大した手て間まじゃなし。十秒もかからないのにさ。―――やあ、ハグリッド」
ハグリッドが大広間の出口の扉とびらの脇わきに立って、レイブンクロー生の群れが通り過ぎるのをやり過ごしていた。いまだに、巨人のところへの使いから戻った当日と同じぐらい、ひどい怪け我がをしている。しかも鼻はなっ柱ぱしらを真ま一いち文もん字じに横切る生々なまなましい傷きずがあった。