二人はぶらぶらと、ダービシュ・アンド・バングズ店のほうに歩いて行った。窓には大きなポスターが貼はられ、ホグズミードの村人が二、三人それを見ていたが、ハリーとチョウが近づくと脇わきに避よけた。ハリーは、またしても脱獄だつごくした十人の死し喰くい人びとの写真と向き合ってしまった。「魔ま法ほう省しょう通達つうたつ」と書かれたポスターには、写真の脱獄囚の誰か一人でも、再さい逮捕たいほに結びつくような情報を提てい供きょうした者には、一千ガリオンの懸けん賞しょう金きんを与えるとなっていた。
「おかしいわねえ」死喰い人の写真を見つめながら、チョウが低い声で言った。「シリウス・ブラックが脱走だっそうしたときのこと、憶おぼえてるでしょう ホグズミード中に、捜索そうさくの吸魂鬼ディメンターがいたわよね それが、こんどは十人もの死喰い人が逃亡とうぼう中なのに、吸魂鬼はどこにもいない……」
「うん」ハリーはベラトリックス・レストレンジの写真から無理に目を逸そらせ、ハイストリート通りの端から端まで視線しせんを走らせた。「うん、たしかに変だ」
近くに吸魂鬼がいなくて残念だというわけではない。しかし、よく考えてみると、いないということには大きな意味がある。吸魂鬼は、死喰い人を脱獄させてしまったばかりか、探そうともしていない……。もはや魔法省は、吸魂鬼を制御せいぎょできなくなっているかのようだ。
ハリーとチョウが通り過ぎる先々の店のウィンドウで、脱獄した十人の死喰い人の顔が睨にらんでいた。スクリベンシャフトの店の前を通ったとき、雨が降ふってきた。冷たい大粒おおつぶの雨が、ハリーの顔を、そして首筋くびすじを打った。
「あの……コーヒーでもいかが」
雨足あまあしがますます強くなり、チョウがためらいがちに言った。
「ああ、いいよ」ハリーはあたりを見回した。「どこで」
「ええ、すぐそこにとっても素敵すてきなところがあるわ。マダム・パディフットのお店に行ったことない」チョウは明るい声でそう言うと、脇道わきみちに入り、小さな喫きっ茶さ店てんへとハリーを誘いざなった。ハリーはこれまでそんな店に気がつきもしなかった。狭苦せまくるしくてなんだかむんむんする店で、何もかもフリルやリボンで飾かざり立てられていた。ハリーはアンブリッジの部屋を思い出していやな気分になった。
「かわいいでしょ」チョウがうれしそうに言った。
「ん……うん」ハリーは気持を偽いつわった。
「ほら、見て。バレンタインデーの飾りつけがしてあるわ」チョウが指差した。
それぞれの小さな丸テーブルの上に、金色のキューピッドがたくさん浮かび、テーブルに座っている人たちに、ときどきピンクの紙ふぶきを振ふりかけていた。
「まぁぁぁ……」
二人は、白く曇った窓のそばに一つだけ残っていたテーブルに座った。レイブンクローのクィディッチ・キャプテン、ロジャー・デイビースが、ほんの数十センチしか離はなれていないテーブルに、かわいいブロンドの女の子と一いっ緒しょに座っていた。手と手を握にぎっている。ハリーは落ち着かない気分になった。その上、店内を見回すとカップルだらけで、みんな手を握り合っているのが目に入り、ますます落ち着かなくなった。チョウも、ハリーがチョウの手を握るのを期待するだろう。