ハリーは何がなんだかわからずにチョウを見つめた。チョウはフリルいっぱいのナプキンをつかみ、涙に濡ぬれた顔に押し当てていた。
「チョウ」ハリーは恐る恐る呼びかけた。ロジャーが、ガールフレンドを捕つかまえて、またキスを始めてくれればいいのに。そうすればハリーとチョウをじろじろ見るのをやめるだろうに。
「行ってよ。早く」チョウは、いまやナプキンに顔を埋うずめて泣いていた。「私とデートした直後にほかの女の子に会う約束をするなんて、なぜ私を誘さそったりしたのかわからないわ……ハーマイオニーのあとには、あと何人とデートするの」
「そんなんじゃないよ」何が気に障さわっていたのかがやっとわかって、ほっとすると同時に、ハリーは笑ってしまった。とたんに、しまったと思ったが、もう遅おそかった。
チョウがパッと立ち上がった。店中がしーんとなって、いまやすべての目が二人に注がれていた。
「ハリー、じゃ、さよなら」チョウは劇的げきてきに一言言うなり、少ししゃくり上げながら出口へと駆かけ出し、ぐいとドアを開けて土ど砂しゃ降ぶりの雨の中に飛び出して行った。
「チョウ」ハリーは追いかけるように呼んだが、ドアはすでに閉まり、チリンチリンという音だけが鳴っていた。
店内は静まり返っていた。目という目がハリーを見ていた。ハリーはテーブルに一ガリオンを放ほうり出し、ピンクの紙ふぶきを頭から払い落としてチョウを追って外に出た。
雨が激はげしくなっていた。そして、チョウの姿はどこにも見えなかった。何が起こったのか、ハリーにはさっぱりわからなかった。三十分前まで、二人はうまくいっていたのに。
「女ってやつは」両手をポケットに突っ込み、雨水の流れる道をビチャビチャ歩きながら、ハリーは腹を立てて呟つぶやいた。「だいたい、なんでセドリックの話なんかしたがるんだ どうしていつも、自分が人間散水さんすいホースみたいになる話を引ひっ張ぱり出すんだ」
ハリーは右に曲がり、バシャバシャと駆け出した。何分もかからずに、ハリーは「三本の箒ほうき」の戸口に着いた。ハーマイオニーと会う時間には早すぎたが、ここなら誰か時間をつぶせる相手がいるだろうと思った。濡ぬれた髪かみを、ブルッと目から振り払い、ハリーは店内を見回した。ハグリッドが、一人でむっつりと隅すみのほうに座っていた。
「やあ、ハグリッド」混こみ合ったテーブルの間をすり抜け、ハグリッドの脇わきに椅子を引き寄せて、ハリーが声をかけた。
ハグリッドは飛び上がって、まるでハリーが誰だかわからないような目で見下ろした。ハグリッドの顔に新しい切り傷きずが二つと打ち身が数ヵ所できていた。