「早かったのね」ハリーが座れるように場所を空あけながら、ハーマイオニーが言った。
「チョウと一いっ緒しょだと思ったのに。あと一時間はあなたが来ないと思ってたわ」
「チョウ」リータが即座そくざに反応はんのうし、座ったまま体を捩ねじって、まじまじとハリーを見つめた。
「女の子と」
リータはワニ革がわハンドバッグをひっつかみ、中をゴソゴソ探した。
「ハリーが百人の女の子とデートしようが、あなたの知ったことじゃありません」ハーマイオニーが冷たく言った。「だから、それはすぐしまいなさい」
リータがハンドバッグから、黄緑色の羽は根ねペンをまさに取り出そうとしたところだった。「臭しゅう液えき」を無理やり飲み込まされたような顔で、リータはまたバッグをパチンと閉めた。
「君たち、何するつもりだい」腰掛こしかけながら、ハリーはリータ、ルーナ、ハーマイオニーの顔を順に見つめた。
「ミス優ゆう等とう生せいがそれをちょうど話そうとしていたところに、君が到とう着ちゃくしたわけよ」リータはグビリと音を立てて飲み物を飲んだ。「こちらさんと話すのはお許しいただけるんざんしょ」リータがきっとなってハーマイオニーに言った。
「ええ、いいでしょう」ハーマイオニーが冷たく言った。
リータに失しつ業ぎょうは似に合あわなかった。かつては念入ねんいりにカールしていた髪かみは、櫛くしも入れず、顔の周りにだらりと垂たれ下がっていた。六センチもあろうかという鉤爪かぎづめに真まっ赤かに塗ぬったマニキュアはあちこち剥はげ落ち、フォックス型メガネのイミテーション宝石が二、三個欠けていた。リータはもう一度ぐいっと飲み物を呷あおり、唇くちびるを動かさずに言った。
「かわいい子なの ハリー」
「これ以上ハリーのプライバシーに触ふれたら、取とり引ひきはなしよ。そうしますからね」ハーマイオニーが苛立いらだった。
「なんの取引ざんしょ」リータは手の甲こうで口を拭ぬぐった。「小こうるさいお嬢じょうさん、まだ取引の話なんかしてないね。あたしゃ、ただ顔を出せと言われただけで。うーっ、いまに必ず……」リータがブルッと身震みぶるいしながら息を深く吸い込んだ。
「ええ、ええ、いまに必ず、あなたは、私やハリーのことで、もっととんでもない記事を書くでしょうよ」ハーマイオニーは取り合わなかった。「そんな脅おどしを気にしそうな相手を探せばいいわ。どうぞご自由に」
「あたくしなんかの手を借かりなくとも、新聞には今年、ハリーのとんでもない記事がたくさん載のってたざんすよ」グラス越しに横目でハリーの顔を見ながら、リータは耳障みみざわりな囁ささやき声で聞いた。「それで、どんな気持がした ハリー 裏切うらぎられた気分 動揺どうようした 誤解ごかいされてると思った」
「もちろん、ハリーは怒りましたとも」ハーマイオニーが厳きびしい声で凛りんと言い放はなった。「ハリーは魔法大臣に本当のことを話したのに、大臣はどうしようもないバカで、ハリーを信用しなかったんですからね」