「それじゃ、君はあくまで言い張るわけだ。『名前を呼んではいけないあの人』が戻ってきたと」リータはグラスを下げ、射いるような目でハリーを見み据すえ、指がうろうろと物欲ものほしげにワニ革がわバッグの留とめ金がねのあたりに動いて行った。「ダンブルドアがみんなに触ふれ回っている戯言たわごとを、『例のあの人』が戻ったとか、君が唯ゆい一いつの目もく撃げき者しゃだとかを、君も言い張るわけざんすね」
「僕だけが目撃者じゃない」ハリーが唸うなるように言った。「十数人の死し喰くい人びとも、その場にいたんだ。名前を言おうか」
「いいざんすね」こんどはバッグにもぞもぞと手を入れ、こんな美しいものは見たことがないという目でハリーを見つめながら、リータが息を殺して言った。「ぶち抜き大見出し『ポッター、告発こくはつす……』小見出しで『ハリー・ポッター、身近に潜伏せんぷくする死し喰くい人びとの名前をすっぱ抜く』。それで、君の大きな顔写真の下には、こう書く。『例のあの人』に襲おそわれながらも生き残った、心病やめる十代の少年、ハリー・ポッター15は、昨日、魔法界の地位も名誉めいよもある人物たちを死喰い人であると告発し、世間を激怒げきどさせた……」
自じ動どう速そっ記き羽は根ねペンを実際じっさいに手に持ち、口元まで半分ほど持っていったところで、リータの顔から恍惚こうこつとした表情が失うせた。
「でも、だめだわね」リータは羽根ペンを下ろし、険悪けんあくな目つきでハーマイオニーを見た。
「ミス優ゆう等とう生せいのお嬢じょうさんが、そんな記事はお望みじゃないざんしょ」
「実は」ハーマイオニーがやさしく言った。「ミス優等生のお嬢さんは、まさにそれをお望みなの」
リータは目を丸くしてハーマイオニーを見た。ハリーもそうだった。一方いっぽうルーナは、夢見るように「♪ウィーズリーは我が王者おうじゃ」と小声で口ずさみながら、串刺くしざしにしたカクテル・オニオンで飲み物を掻かき混まぜた。
「あたくしに、『名前を呼んではいけないあの人』についてハリーが言うことを、記事にしてほしいんざんすか」リータは声を殺して聞いた。
「ええ、そうなの」ハーマイオニーが言った。「真実の記事を。すべての事実を。ハリーが話すとおりに。ハリーは全部詳くわしく話すわ。あそこでハリーが見た、『隠かくれ死し喰くい人びと』の名前も、現在ヴォルデモートがどんな姿なのかも――あら、しっかりしなさいよ」テーブル越しにナプキンをリータのほうに放ほうり投げながら、ハーマイオニーが軽蔑けいべつしたように言った。ヴォルデモートという名前を聞いただけで、リータがひどく飛び上がり、ファイア・ウィスキーをグラス半分も自分にひっかけてしまったのだ。