「こんどの試合は見たくもない気分だ。ザカリアス・スミスに敗やぶれるようなことがあったら、俺は死にたいよ」
「むしろ、あいつを殺すね」フレッドがきっぱりと言った。
「これだからクィディッチは困るのよ」再びルーン文字の解読かいどくにかじりつきながら、ハーマイオニーが上うわの空で言った。「おかげで、寮りょうの間で悪あく感かん情じょうやら緊きん張ちょうが生まれるんだから」
「スペルマン音おん節せつ文も字じ表ひょう」を探すのにふと目を上げたハーマイオニーは、フレッド、ジョージ、ハリーが、一斉いっせいに自分を睨にらんでいるのに気づいた。三人とも呆気あっけに取られた、苦々にがにがしげな表情を浮かべている。
「ええ、そうですとも」ハーマイオニーが苛立いらだたしげに言った。「たかがゲームじゃない」
「ハーマイオニー」ハリーが頭を振りながら言った。「君って、人の感情とかはよくわかってるけど、クィディッチのことはさっぱり理解してないね」
「そうかもね」また翻訳ほんやくに戻りながら、ハーマイオニーが悲ひ観かん的てきな言い方をした。「だけど、少なくとも、私の幸せは、ロンのゴールキーパーとしての能力に左右されたりしないわ」
しかし、土曜日の試合観かん戦せん後ごのハリーは、自分もクィディッチなんかどうでもいいと思えるようになるのなら、ガリオン金貨を何枚出しても惜おしくないという気持になっていた。もっともハーマイオニーの前でこんなことを認めるくらいなら、天てん文もん台だい塔とうから飛び降おりたほうがましだった。
この試合で最高だったのは、すぐ終ったことだった。グリフィンドールの観かん客きゃくは、たった二十二分の苦痛に耐たえるだけですんだ。何が最低だったかは、判定が難しい。ロンが十四回もゴールを抜ぬかれたことか、スローパーがブラッジャーを撃うち損そこねて、代わりに棍棒こんぼうでアンジェリーナの口をひっぱたいたことか、クアッフルを持ったザカリアス・スミスが突っ込んできたときに、カークが悲鳴ひめいを上げて箒ほうきから仰向あおむけに落ちたことか、ハリーの見るところ、なかなかいい勝負だ。奇き跡せき的てきに、グリフィンドールは、たった十点差で負けただけだった。ジニーが、ハッフルパフのシーカー、サマービーの鼻先から、辛からくもスニッチを奪うばい取ったので、最終得点は二四〇対二三〇だった。
「見事なキャッチだった」談だん話わ室しつに戻ったとき、ハリーがジニーに声をかけた。談話室はまるでとびっ切り陰気いんきな葬式そうしきのような雰ふん囲い気きだった。
「ラッキーだったのよ」ジニーが肩をすくめた。「あんまり早いスニッチじゃなかったし、サマービーが風か邪ぜを引いてて、ここぞというときに、くしゃみして目をつぶったの。とにかく、あなたがチームに戻ったら――」
「ジニー、僕は一いっ生しょう涯がい、禁止になってるんだ」
「アンブリッジが学校にいるかぎり、禁止になってるのよ」ジニーが訂正ていせいした。「一生涯とは違うわ。とにかく、あなたが戻ったら、私はチェイサーに挑ちょう戦せんするわ。アンジェリーナもアリシアも来年は卒業だし、どっちみち、私はシーカーよりゴールで得点するほうが好きなの」
ハリーはロンを見た。ロンは、隅すみっこに屈かがみ込こみ、バタービールの瓶びんをつかんで膝ひざ小こ僧ぞうをじっと見つめている。