またもや涙を流したと聞いて、ハリーはすまない気持になったが、再び口をきいてもらえるようになってとてもうれしかった。もっとうれしいことに、チョウが急いで立ち去る前にハリーの頬ほおに素早すばやくキスをした。さらに、なんと「変身術」の教室に着くや否いなや、信じられないことに、またまたいいことが起こった。シェーマスが列から一歩進み出てハリーの前に立った。
「君に言いたいことがあって」シェーマスが、ハリーの左の膝ひざあたりをチラッと見ながら、ボソボソ言った。「僕、君を信じる。それで、あの雑誌ざっしを一部、ママに送ったよ」
幸福な気持の仕上げは、マルフォイ、クラッブ、ゴイルの反応はんのうだった。その日の午後遅おそく、ハリーは、図書室で三人が額ひたいを寄せ合っているところに出くわした。一いっ緒しょにいるひょろりとした男の子は、セオドール・ノットという名だとハーマイオニーが耳打ちした。書棚しょだなを見回して「部ぶ分ぶん消しょう失しつ術じゅつ」に関する本を探していると、四人がハリーを振り返った。ゴイルは脅おどすように拳こぶしをポキポキ鳴らしたし、マルフォイは、もちろん悪口に違いないが、何やらクラッブに囁いた。ハリーは、なぜそんな行動を取るかよくわかっていた。四人の父親が死し喰くい人びとだと名な指ざしされたからだ。
「それに、一番いいことはね」図書室を出るとき、ハーマイオニーが大喜びで言った。「あの人たち、あなたに反論はんろんできないのよ。だって、自分たちが記事を読んだなんて認めることができないもの」
最後の総仕上げは、ルーナが夕食のときに、「ザ・クィブラー」がこんなに飛ぶように売れたことはないと告げたことだった。「パパが増刷ぞうさつしてるんだよ」ハリーにそう言ったとき、ルーナの目が興こう奮ふんで飛び出していた。「パパは信じられないって。みんなが『しわしわ角づのスノーカック』よりも、こっちに興きょう味みを持ってるみたいだって、パパが言うんだ」
その夜、グリフィンドールの談だん話わ室しつで、ハリーは英雄だった。大だい胆たん不ふ敵てきにも、フレッドとジョージは「ザ・クィブラー」の表紙の写真に「拡かく大だい呪じゅ文もん」をかけ、壁かべに掛かけた。ハリーの巨大な顔が、部屋のありさまを見下ろしながら、ときどき大だい音おん響きょうでしゃべった。
「魔法省の間ま抜ぬけ野郎」「アンブリッジ、糞クソ食らえ」
ハーマイオニーはこれがあまり愉快ゆかいだとは思わず、集中力が削そがれると言った。そして、とうとう苛立いらだって早めに寝室しんしつに引き揚あげてしまった。ハリーも、一、二時間後にはこのポスターがそれほどおもしろくないと認めざるをえなかった。とくに、「おしゃべり呪じゅ文もん」の効きき目が薄うすれてくると、「糞クソ」とか「アンブリッジ」とか切れ切れに叫さけぶだけで、それもだんだん頻繁ひんぱんに、だんだん甲高かんだかい声になってきた。おかげで、事実ハリーは頭痛がして、傷きず痕あとがまたもやちくちくと痛み出し、気分が悪くなった。ハリーを取り囲んで、もう何度目かわからないほど繰くり返しインタビューの話をせがんでいた生徒たちはがっかりして呻うめいたが、ハリーは自分も早く休みたいと宣せん言げんした。