ハリーはのた打ち回り、ベッドカーテンに絡からまってベッドから落ちた。しばらくは、自分がどこにいるのかもわからなかった。白い、骸骨のような顔が、暗がりから再び自分に近づいてくるのが見えるに違いないと思った。すると、すぐ近くでロンの声がした。
「じたばたするのはやめてくれよ。ここから出してやるから」
ロンが絡んだカーテンをぐいと引ひっ張ぱった。ハリーは仰向あおむけに倒れ、月明かりでロンを見上げていた。傷きず痕あとが焼けるように痛んだ。ロンは着き替がえの最中だったらしく、ローブから片腕かたうでを出していた。
「また誰か襲おそわれたのか」ロンがハリーを手荒てあらに引っ張って立たせながら言った。「パパかい あの蛇へびなのか」
「違う――みんな大だい丈じょう夫ぶだ――」ハリーが喘いだ。額ひたいが火を噴ふいているようだった。「でも……エイブリーは……危あぶない……あいつに、間違った情報を渡したんだ……ヴォルデモートがすごく怒ってる……」
ハリーは呻うめき声を上げて座り込み、ベッドの上で震ふるえながら傷痕を揉もんだ。
「でも、ルックウッドがまたあいつを助ける……あいつはこれでまた軌道きどうに乗った……」
「いったい何の話だ」ロンは恐こわ々ごわ聞いた。「つまり……たったいま『例のあの人』を見たって言うのか」
「僕が『例のあの人』だった」答えながらハリーは、暗闇で両手を伸ばし、顔の前にかざして、死人しびとのように白く長い指はもうついていないことを確かめた。「あいつはルックウッドと一いっ緒しょにいた。アズカバンから脱獄だつごくした死し喰くい人びとの一人だよ。憶おぼえてるだろう ルックウッドがたったいま、あいつに、ボードにはできなかったはずだと教えた」
「何が」
「何かを取り出すことがだ……。ボードは自分にはできないことを知っていたはずだって、ルックウッドが言った……。ボードは『服ふく従じゅうの呪じゅ文もん』をかけられていた……マルフォイの父親がかけたって、ルックウッドがそう言ってたと思う」
「ボードが何かを取り出すために呪文をかけられた」ロンが聞き返した。「まてよ――ハリー、それってきっと――」
「武器だ」ハリーがあとの言葉を引き取った。「そうさ」
寝室しんしつのドアが開き、ディーンとシェーマスが入ってきた。ハリーは急いで両足をベッドに戻した。たったいま変なことが起こったように見られたくなかった。せっかくシェーマスが、ハリーが狂っていると思うのをやめたばかりなのだから。
「君が言ったことだけど」ロンがベッドの脇わき机づくえにある水差しからコップに水を注ぐふりをしながら、ハリーのすぐそばに頭を近づけ、呟つぶやくように言った。「君が『例のあの人』だったって」
「うん」ハリーが小声で言った。
ロンは思わずガブッと水を飲み、口から溢あふれた水が顎あごを伝つたって胸元にこぼれた。
「ハリー」ディーンもシェーマスも着き替がえたりしゃべったりでガタガタしているうちに、ロンが言った。「話すべきだよ――」
「誰にも話す必要はない」ハリーがすっぱりと言った。
「『閉へい心しん術じゅつ』ができたら、こんなことを見るはずがない。こういうことを閉め出す術すべを学ぶはずなんだ。みんながそれを望んでいる」
「みんな」と言いながら、ハリーはダンブルドアを考えていた。ハリーはベッドに寝転び、横向きになってロンに背を向けた。しばらくすると、ロンのベッドが軋きしむ音が聞こえた。ロンも横になったらしい。ハリーの傷きず痕あとがまた焼けつくように痛み出した。ハリーは枕まくらを強く噛かみ、声を押し殺した。ハリーにはわかっていた。どこかで、エイブリーが罰ばっせられている。