「君がなぜここにいるのか、わかっているのだろうな ポッター」スネイプは低い、険悪けんあくな声で言った。「我わが輩はいが、なぜこんな退たい屈くつ極きわまりない仕事のために夜の時間を割さいているのか、わかっているのだろうな」
「はい」ハリーは頑かたくなに言った。
「なぜここにいるのか、言ってみたまえ。ポッター」
「『閉へい心しん術じゅつ』を学ぶためです」こんどは死んだウナギを見つめながら、ハリーが言った。
「そのとおりだ。ポッター。そして、君がどんなに鈍にぶくとも――」ハリーはスネイプのほうを見た。憎にくかった。「――二ヵ月以上も特訓とっくんをしたからには、少しは進歩するものと思っていたのだが。闇やみの帝てい王おうの夢を、あと何回見たのだ」
「この一回だけです」ハリーは嘘うそをついた。
「おそらく――」スネイプは暗い、冷たい目をわずかに細めた。「おそらく君は、こういう幻覚げんかくや夢を見ることを、事実楽しんでいるのだろう、ポッター。たぶん、自分が特別だと感じられるのだろう――重要人物だと」
「違います」ハリーは歯を食いしばり、指は杖つえを固く握にぎり締しめていた。
「そのほうがよかろう、ポッター」スネイプが冷たく言った。「おまえは特別でも重要でもないのだから。それに、闇の帝王が死し喰くい人びとたちに何を話しているかを調べるのは、おまえの役目ではない」
「ええ――それは先生の仕事でしょう」ハリーは素早すばやく切り返した。
そんなことを言うつもりはなかったのに、言葉が癇かん癪しゃく玉だまのように破裂はれつした。しばらくの間、二人は睨にらみ合っていた。ハリーは間違いなく言いすぎだったと思った。しかし、スネイプは、奇き妙みょうな、満足げとさえ言える表情を浮かべて答えた。
「そうだ、ポッター」スネイプの目がギラリと光った。「それは我輩の仕事だ。さあ、準備はいいか。もう一度やる」
スネイプが杖つえを上げた。「一――二――三――『レジリメンス』」
百ひゃく有ゆう余よの吸きゅう魂こん鬼きが、校庭の湖を渡わたり、ハリーを襲おそってくる……ハリーは顔が歪ゆがむほど気持を集中させた……だんだん近づいてくる……フードの下に暗い穴が見える……しかも、ハリーは目の前に立っているスネイプの姿も見えた。ハリーの顔に目を据すえ、小声でブツブツ唱となえている……そして、なぜか、スネイプの姿がはっきりしてくるにつれ、吸魂鬼の姿は薄うすれていった……。
ハリーは自分の杖つえを上げた。「プロテゴ 護れ」