ハリーは目を開けた。また仰向あおむけに倒れていた。どうやってそうなったのかまったく覚えがない。その上、ハァハァ息を切らしていた。本当に神秘部の廊下を駆かけ抜けたかのように、本当に疾走しっそうして黒い扉を通り抜け、円筒形の部屋を発見したかのように。
「説明しろ」スネイプが怒り狂った表情で、ハリーに覆いかぶさるように立っていた。
「僕……何が起こったかわかりません」ハリーは立ち上がりながら本当のことを言った。後頭部が床にぶつかって瘤こぶができていた。しかも熱っぽかった。「あんなものは前に見たことがありません。あの、扉とびらの夢を見たことはお話しました……でも、これまで一度も開けたことがなかった……」
「おまえは十分な努力をしておらん」
なぜかスネイプは、いましがたハリーに自分の記憶きおくを覗のぞかれたときよりずっと怒っているように見えた。
「おまえは怠なまけ者でだらしがない。ポッター。そんなことだから当然、闇やみの帝てい王おうが――」
「お聞きしてもいいですか 先生」ハリーはまた怒りが込み上げてきた。「先生はどうしてヴォルデモートのことを闇の帝王と呼ぶんですか 僕は、死し喰くい人びとがそう呼ぶのしか聞いたことがありません」
スネイプが唸うなるように口を開いた。――そのとき、どこか部屋の外で、女性の悲鳴ひめいがした。
スネイプはぐいと上を仰あおいだ。天井を見つめている。
「いったい――」スネイプが呟つぶやいた。
ハリーの耳には、どうやら玄げん関かんホールと思おぼしきところから、こもった音で騒ぎが聞こえてきた。スネイプは顔をしかめてハリーを見た。
「ここに来る途と中ちゅう、何か異常なものは見なかったか ポッター」
ハリーは首を振った。どこか二人の頭上で、また女性の悲鳴が聞こえた。スネイプは杖つえを構かまえたまま、つかつかと研究室のドアに向かい、素早すばやく出て行った。ハリーは一いっ瞬しゅん戸と惑まどったが、あとに続いた。
悲鳴はやはり玄関ホールからだった。地ち下か牢ろうからホールに上がる石段へと走るうちに、だんだん声が大きくなってきた。石段を上り切ると、玄関ホールは超満員だった。まだ夕食が終っていなかったので、何事かと、大広間から見物の生徒が溢あふれ出してきたのだ。他の生徒は大だい理り石せきの階段に鈴すずなりになっていた。ハリーは背の高いスリザリン生が塊かたまっている中を掻かき分わけて前に出た。見物人は大きな円を描き、何人かはショックを受けたような顔をし、また何人かは恐きょう怖ふの表情さえ浮かべていた。マクゴナガル先生がホールの反対側の、ハリーの真正面にいる。目の前の光景こうけいに気分が悪くなったような様子だ。