ドアが閉まり、最後の生徒がクズ籠かごの脇わきの切株きりかぶに腰を下ろすと、フィレンツェがぐるりと部屋を見渡した。
「ダンブルドア先生のご厚意こういで、この教室が準備されました」生徒全員が落ち着いたところで、フィレンツェが言った。「私の棲せい息そく地ちに似せてあります。できれば禁じられた森で授業をしたかったのです。そこが――この月曜日までは――私の棲すまいでした……しかし、もはやそれはかないません」
「あの――えーと――先生――」パーバティが手を挙あげ、息を殺して尋たずねた。「――どうしてですか 私たち、ハグリッドと一いっ緒しょにあの森に入ったことがあります。怖くありません」
「君たちの勇気が問題なのではありません」フィレンツェが言った。「私の立場の問題です。私はもはやあの森に戻ることができません。群れから追放ついほうされたのです」
「群れ」ラベンダーが困惑こんわくした声を出した。ハリーは、牛の群れを考えているのだろうと思った。
「なんです――あっ」わかったという表情がパッと広がった。「先生の仲間なかまがもっといるのですね」ラベンダーがびっくりしたように言った。
「ハグリッドが繁はん殖しょくさせたのですか セストラルみたいに」ディーンが興きょう味み津しん々しんで聞いた。
フィレンツェの頭がゆっくりと回り、ディーンの顔を直ちょく視しした。ディーンはすぐさま、何かとても気に障さわることを言ってしまったと気づいたらしい。
「そんなつもりでは――つまり――すみません」最後は消え入るような声だった。
「ケンタウルスはヒト族の召めし使つかいでも、慰なぐさみ者でもない」フィレンツェが静かに言った。しばらく間が空あいた。それから、パーバティがもう一度しっかり手を挙あげた。
「あの、先生……どうしてほかのケンタウルスが先生を追放ついほうしたのですか」
「それは、私がダンブルドアのために働くのを承しょう知ちしたからです」フィレンツェが答えた。
「仲間なかまは、これが我々の種族しゅぞくを裏切うらぎるものだと見ています」
ハリーはもうかれこれ四年前のことを思い出していた。フィレンツェがハリーを背中に乗せて安全なところまで運んだことで、ケンタウルスのベインがフィレンツェを怒ど鳴なりつけ、「ただのロバ」呼ばわりした。ハリーは、もしかしたら、フィレンツェの胸を蹴けったのはベインではないかと思った。