「シビル・トレローニーは『予見よけん』したことがあるかもしれません。私にはわかりませんが」フィレンツェは話し続け、生徒の前を往いったり来きたりしながら尻尾しっぽをシュッと振る音が、ハリーの耳に入った。「しかしあの方かたは、ヒトが予言と呼んでいる、自じ己こ満足まんぞくの戯言たわごとに大方おおかたの時間を浪費ろうひしている。私は、個人的なものや偏見へんけんを離はなれた、ケンタウルスの叡智えいちを説明するためにここにいるのです。我々が空を眺ながめるのは、そこに時折ときおり記されている、邪悪じゃあくなものや変化の大きな潮ちょう流りゅうを見るためです。我々がいま見ているものが何であるかがはっきりするまでに、十年もの歳月さいげつを要することがあります」
フィレンツェはハリーの真上の赤い星を指差した。
「この十年間、魔法界が、二つの戦争の合間あいまの、ほんのわずかな静けさを生きているにすぎないと印されていました。戦いをもたらす火星が、我々の頭上に明るく輝かがやいているのは、まもなく再び戦いが起こるであろうことを示し唆さしています。どのぐらいさし迫せまっているかを、ケンタウルスはある種の薬草や木の葉を燃やし、その炎や煙を読むことで占うらなおうとします……」
これまでハリーが受けた中で、一番風変ふうがわりな授業だった。みんなが実際じっさいに教室の床の上でセージやゼニアオイを燃やした。フィレンツェはつんと刺し激げき臭しゅうのある煙の中に、ある種の形や徴しるしを探すように教えたが、誰もフィレンツェの説明する印を見つけることができなくとも、まったく意に介かいさないようだった。ヒトはこういうことが得意だった例ためしがないし、ケンタウルスも能力を身につけるまでに長い年月がかかっていると言い、最後には、いずれにせよ、こんなことを信用しすぎるのは愚おろかなことだ、ケンタウルスでさえ時には読み違えるのだから、と締しめ括くくった。ハリーがいままで習ったヒトの先生とはまるで違っていた。フィレンツェにとって大切なのは、自分の知っていることを教えることではなく、むしろ、何事も、ケンタウルスの叡智でさえ、絶対に確実なものなどないのだと生徒に印象づけることのようだった。
「フィレンツェはなんにも具ぐ体たい的てきじゃないね」ゼニアオイの火を消しながら、ロンが低い声で言った。「だってさ、これから起ころうとしている戦いについて、もう少し詳くわしいことが知りたいよな」