歴代れきだい校長の肖しょう像ぞう画がは、今夜は狸たぬき寝ね入いりしていない。全員目を開け、まじめな顔で眼下がんかの出来事を見守っている。ハリーが入ってくると、何人かが隣となりの額がくに入り込み、切迫せっぱくした様子で、隣人りんじんに何事か耳打ちした。
扉がバタンと閉まったとき、ハリーはアンブリッジの手を振り解ほどいた。コーネリウス・ファッジは、何やら毒々しい満足感を浮かべてハリーを睨にらみつけていた。
「さーて」ファッジが言った。「さて、さて、さて……」
ハリーはありったけの憎々にくにくしさを目に込めてファッジに応こたえた。心臓は激はげしく鼓動こどうしていたが、頭は不ふ思し議ぎに冷静れいせいで、冴さえていた。
「この子はグリフィンドール塔とうに戻る途と中ちゅうでした」アンブリッジが言った。声にいやらしい興こう奮ふんが感じ取れた。トレローニー先生が玄げん関かんホールで惨みじめに取り乱すのを見つめていたときのアンブリッジの声にも、ハリーは同じ残忍ざんにんな悦よろこびを聞き取っていた。「あのマルフォイ君が、この子を追い詰つめましたわ」
「あの子がかね」ファッジが感心したように言った。「忘れずにルシウスに言わねばなるまい。さて、ポッター……。どうしてここに連れてこられたか、わかっているだろうな」
ハリーは、挑ちょう戦せん的てきに「はい」と答えるつもりだった。口を開いた。言葉が半分出かかったとき、ふとダンブルドアの顔が目に入った。ダンブルドアはハリーを直接に見てはいなかった――その視線しせんは、ハリーの肩越しの、ある一点を見つめていた。――しかし、ハリーがその顔をじっと見ると、ダンブルドアがほんのわずかに首を横に振った。
ハリーは半分口に出した言葉を方ほう向こう転てん換かんした。
「は――いいえ」
「なんだね」ファッジが聞いた。
「いいえ」ハリーはきっぱりと答えた。
「どうしてここにいるのか、わからんと」
「わかりません」ハリーが言った。
ファッジは面食めんくらって、ハリーを、そしてアンブリッジを見た。その一いっ瞬しゅんの隙すきに、ハリーは急いでもう一度ダンブルドアを盗み見た。すると、ダンブルドアは絨じゅう毯たんに向かって、微かすかに頷うなずき、ウィンクしたような気配を見せた。