マリエッタが顔を上げると、ファッジはぎょっとして飛び退すさり、危あやうく暖炉だんろに突っ込みそうになった。マントの裾すそが燻くすぶりはじめ、ファッジは悪態あくたいをつきながら、バタバタと裾を踏ふみつけた。マリエッタは泣き声を上げ、ローブを目のところまで引っ張り上げた。しかし、もうみんなが、その変わり果てた顔を見てしまった。マリエッタの頬ほおから鼻を横切って、膿うんだ紫むらさき色いろのでき物がびっしりと広がり、文字を描いていたのだ。――密みっ告こく者しゃ――。
「さあ、そんなぶつぶつは気にしないで」アンブリッジがもどかしげに言った。「口からローブを離はなして、大臣に申し上げなさい――」
しかし、マリエッタは口を覆ったままでもう一度泣き声を上げ、激はげしく首を振った。
「バカな子ね。もう結構。わたくしがお話します」アンブリッジがぴしゃりとそう言うと、例の気味の悪いにっこり笑顔を貼はりつけ、話し出した。「さて、大臣、このミス・エッジコムが、今夜、夕食後間まもなくわたくしの部屋にやって来て、何か話したいことがあると言うのです。そして、八階の、とくに『必要ひつようの部へ屋や』と呼ばれる秘ひ密みつの部屋に行けば、わたくしにとって何か都合つごうのよいものが見つかるだろうと言うのです。もう少し問い詰つめたところ、この子は、そこで何らかの会合かいごうが行われるはずだと白はく状じょうしました。残念ながら、その時点で、この呪のろいが」アンブリッジはマリエッタが隠している顔を指して、イライラと手を振った。「効きいてきました。わたくしの鏡かがみに映うつった自分の顔を見たとたん、この子は愕然がくぜんとして、それ以上何も話せなくなりました」
「よーし、よし」ファッジは、やさしい父親の眼差しとはこんなものだろうと自分なりに考えたような目で、マリエッタを見つめながら言った。「アンブリッジ先生のところに話しにいったのは、とっても勇敢ゆうかんだったね。君のやったことは、まさに正しいことだったんだよ。さあ、その会合かいごうで何があったのか、話しておくれ。目的は何かね 誰が来ていたのかね」
しかし、マリエッタは口をきかなかった。怯おびえたように目を見開き、またしても首を横に振るだけだった。