フィルチを味方につけるため、アンブリッジが相当な手を打ったのは確かだとハリーは思った。最悪なのは、フィルチが重要な武器になりうるということだ。学校の秘ひ密みつの通路や隠れ場所に関するフィルチの知識たるや、それを凌しのぐのは、おそらくウィーズリーの双子ふたごだけだ。
「さあ着いたぞ」フィルチは意地の悪い目でハリーを見ながら、アンブリッジ先生の部屋のドアを三度ノックし、ドアを開けた。
「ポッターめを連れてまいりました。先生」
罰則ばっそくで何度も来た、お馴な染じみのアンブリッジの部屋は、以前と変わっていなかった。一つだけ違ったのは、木製の大きな角材が机の前方に横長に置かれていることで、金文字で 校 長 と書いてある。さらに、ハリーのファイアボルトと、フレッドとジョージの二本のクリーンスイープが――ハリーは胸が痛んだ――机の後ろの壁かべに打ち込まれたがっしりとした鉄の杭くいに、鎖くさりで繋つながれて南なん京きん錠じょうを掛かけられていた。
アンブリッジは机に向かい、ピンクの羊よう皮ひ紙しに、何やら忙いそがしげに走り書きしていたが、二人が入って行くと、目を上げ、ニターッと微笑ほほえんだ。
「ごくろうさま、アーガス」アンブリッジがやさしく言った。
「とんでもない、先生、おやすい御用ごようで」フィルチはリューマチの体が耐たえられる限度まで深々とお辞じ儀ぎし、後退あとずさりで部屋を出て行った。
「座りなさい」アンブリッジは椅子を指差してぶっきらぼうに言った。ハリーが腰掛こしかけた。アンブリッジはそれからまたしばらく書き物を続けた。ハリーはアンブリッジの頭越しに、憎にくたらしい子猫が皿の周りを跳はね回っている絵を眺ながめながら、いったいどんな恐ろしいことが新たにハリーを待ち受けているのだろうと考えていた。
「さてと」やっと羽は根ねペンを置き、アンブリッジは、ことさらにうまそうな蝿はえを飲み込もうとするガマガエルのような顔をした。
「何か飲みますか」
「えっ」ハリーは聞き違いだと思った。
「飲み物よ、ミスター・ポッター」アンブリッジは、ますますニターッと笑った。
「紅茶 コーヒー かぼちゃジュース」
飲み物の名前を言うたびに、アンブリッジは短い杖つえを振り、机の上に茶碗ちゃわんやグラスに入った飲み物が現れた。
「何もいりません。ありがとうございます」ハリーが言った。