「ミスター・ポッター」アンブリッジが迫せまった。「いいですか、十月に、グリフィンドールの暖炉だんろで、犯はん罪ざい者しゃのブラックをいま一歩で逮捕たいほするところだったのは、ほかならぬわたくしですよ。ブラックが会っていたのはあなただと、わたくしにははっきりわかっています。わたくしが証しょう拠こをつかんでさえいたら、はっきり言って、あなたもブラックも、いま、こうして自由の身ではいられなかったでしょう。もう一度聞きます。ミスター・ポッター……シリウス・ブラックはどこですか」
「知りません」ハリーは大声で言った。「見当もつきません」
二人はそれから長いこと睨にらみ合っていた。ハリーは目が潤うるんできたのを感じた。アンブリッジがやおら立ち上がった。
「いいでしょう、ポッター。今回は信じておきます。しかし、警告けいこくしておきますよ。わたくしは魔法省が後うしろ盾だてになっているのです。学校を出入りする通つう信しん網もうは全部監視かんしされています。煙突飛行ネットワークの監視人が、ホグワーツのすべての暖炉を見張っています――わたくしの暖炉だけはもちろん例外ですが。『尋じん問もん官かん親しん衛えい隊たい』が城を出入りするふくろう便びんを全部開封かいふうして読んでいます。それに、フィルチさんが城に続くすべての秘ひ密みつの通路を見張っています。わたくしが証拠のかけらでも見つけたら……」
ドーン
部屋の床が揺ゆれた。アンブリッジが横滑よこすべりし、ショックを受けた顔で、机にしがみついて踏ふみ止とどまった。
「いったいこれは――」アンブリッジがドアのほうを見つめていた。その隙すきに、ハリーはほとんど減っていない紅茶を、一番近くのドライフラワーの花瓶かびんに捨すてた。数階下のほうから、走り回る音や悲鳴ひめいが聞こえた。
「昼食に戻りなさい、ポッター」アンブリッジは杖つえを上げ、部屋から飛び出して行った。ハリーはひと呼こ吸きゅう置いてから、大騒ぎの元は何かを見ようと、急いで部屋を出た。