怒りで煮にえくり返りながら、ハリーは杖をローブにしまい、部屋を出ようとした。どっちみち二十四時間は練習できる。危あやういところを逃のがれられたのはありがたかったが、「魔法薬」の補習が必要だと、マルフォイが学校中に触ふれ回るという代だい償しょうつきでは、素直に喜べなかった。
研究室のドアのところまで来たとき、何かが見えた。扉とびらの枠わくにちらちらと灯あかりが踊おどっていた。ハリーの足が止まった。立ち止まって灯りを見た。何か思い出しそうだ……そして、思い出した。昨夜の夢で見た灯りにどこか似ている。神しん秘ぴ部ぶを通り抜けるあの旅で、二番目に通り過ぎた部屋の灯りだ。
ハリーは振り返った。その灯りは、スネイプの机に置かれた「憂うれいの篩ふるい」から射さしていた。銀ぎん白はく色しょくのものが、中に吸い込まれ、渦巻うずまいている。スネイプの想おもい……ハリーがまぐれでスネイプの護まもりを破ったときに、ハリーに見られたくないもの……。
ハリーは「憂いの篩」をじっと見た。好こう奇き心しんが湧わき上がってくる……。スネイプがそんなにもハリーから隠したかったのは、何だろう
銀色の灯あかりが壁かべに揺ゆらめいた……ハリーは考え込みながら、机に二歩近づいた。もしかして、スネイプが絶対に見せたくないのは、神しん秘ぴ部ぶについての情報ではないのか
ハリーは背後を見た。心臓がこれまで以上に強く、速く鼓動こどうしている。スネイプがモンタギューをトイレから助け出すのに、どのくらいかかるだろう そのあとまっすぐ研究室に戻るだろうか、それともモンタギューを連れて医い務む室しつに行くだろうか 絶対医務室だ……モンタギューはスリザリンのクィディッチ・チームのキャプテンだもの。スネイプは、モンタギューが大だい丈じょう夫ぶだということを、確かめたいに違いない。
ハリーは「憂うれいの篩ふるい」まで、あと数歩を歩き、その上に屈かがみ込み、その深みをじっと見た。ハリーは躊ちゅう躇ちょし、耳を澄すませ、それから再び杖つえを取り出した。研究室も、外の廊下ろうかもしーんとしている。ハリーは杖の先で、「憂いの篩」の中身を軽く突いた。