中の銀色の物質が、急速に渦うずを巻き出した。覗のぞき込むと、中身が透とう明めいになっているのが見えた。またしてもハリーは、天井の丸窓まるまどから覗き込むような形で、一つの部屋を覗いていた……いや、もしあまり見当違いでなければ、そこは大広間だ。
ハリーの息が、スネイプの想おもいの表面を本当に曇らせていた……脳みそが停止ていししたみたいだ……強い誘惑ゆうわくに駆かられてこんなことをするのは、正しょう気きの沙さ汰たじゃない……ハリーは震ふるえていた……スネイプはいまにも戻ってくるかもしれない……しかし、チョウのあの怒り、マルフォイの嘲あざけるような顔を思い出すと、ハリーはどうにでもなれと向こう見ずな気持になっていた。
ハリーは大きく息を吸い込み、顔をガブッとスネイプの想いに突っ込んだ。たちまち、研究室の床が傾き、ハリーは「憂いの篩」に頭からのめり込んだ……。
冷たい暗くら闇やみの中を、ハリーは独こ楽まのように回りながら落ちて行った。そして――。
ハリーは大広間の真ん中に立っていた。しかし、四つの寮りょうのテーブルはない。代わりに、百以上の小こ机づくえがみな同じ方向を向いて並んでいる。それぞれに生徒が座り、俯うつむいて羊よう皮ひ紙しの巻紙まきがみに何かを書いている。聞こえる音といえば、カリカリという羽は根ねペンの音と、ときどき誰かが羊皮紙をずらす音だけだった。試験の時間に違いない。
高窓たかまどから陽ひの光が流れ込んで、俯いた頭に射さしかかり、明るい光の中で髪かみが栗色くりいろや銅どう色、金色に輝かがやいている。ハリーは注意深く周りを見回した。スネイプがどこかにいるはずだ……これはスネイプの記憶きおくなのだから……。
見つけた。ハリーのすぐ後ろの小机だ。ハリーは目を見張った。十代のスネイプは、筋張すじばって生気せいきのない感じだった。ちょうど、暗がりで育った植物のようだ。髪は脂あぶらっこく、だらりと垂たれて机の上で揺れている。鉤鼻かぎばなを羊皮紙にくっつけんばかりにして、何か書いている。ハリーはその背後に回り、試験の題を見た。
「闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ――普通魔法レベル」
するとスネイプは十五か十六で、ハリーと同じぐらいの歳としだ。スネイプの手が羊皮紙の上を飛ぶように動いている。少なくとも一番近くにいる生徒たちより三十センチは長いし、しかも字が細こまかくてびっしりと書いている。