ということは、ワームテールもどこかそのあたりにいるはずだ……やっぱりいた。すぐ見つかった。鼻の尖とんがった、くすんだ茶色の髪の小さな子だ。不安そうだ。爪つめを噛かみ、答とう案あんをじっと見ながら、足の指で床をひっ掻いている。ときどき、あわよくばと、周りの生徒の答案を盗み見ている。ハリーはしばらくワームテールを見つめていたが、やがてジェームズに視線しせんを戻した。こんどは、羊皮紙の切きれ端はしに落書きをしている。スニッチを描かき、「・」という文字をなぞっている。何の略りゃく字じだろう
「はい、羽は根ねペンを置いて」フリットウィック先生がキーキー声で言った。「こら、君もだよ、ステビンス 答とう案あん羊よう皮ひ紙しを集める間、席を立たないように 『アクシオ、来い』」
百巻まき以上の羊皮紙が宙を飛び、フリットウィック先生の伸ばした両腕にブーンと飛び込み、先生を反動で吹っ飛ばした。何人かの生徒が笑った。前列の数人が立ち上がって、フリットウィック先生の肘ひじを抱え込んで助け起こした。
「ありがとう……ありがとう」フリットウィック先生は喘あえぎながら言った。「さあ、みなさん、出てよろしい」
ハリーは父親を見下ろした。すると、落書きでいろいろ飾かざり模様もようをつけていた「・」をグシャグシャッと消して勢いよく立ち上がり、カバンに羽根ペンと試験用紙を入れてポンと肩に掛け、シリウスが来るのを待った。
ハリーが振り返って、少し離はなれたスネイプをちらりと見ると、玄げん関かんホールへの扉とびらに向かって机の間を歩いているところだった。まだ試験問題用紙をじっと見ている。猫背ねこぜなのに角ばった体つきで、ぎくしゃくした歩き方は蜘く蛛もを思わせた。脂あぶらっぽい髪かみが、顔の周りでばさばさ揺ゆれている。
ペチャクチャしゃべる女子学生の群れが、スネイプと、ジェームズ、シリウス、ルーピンとを分けていた。その群れの真ん中に身を置くことで、ハリーはスネイプの姿を捕とらえたままで、ジェームズとその仲間なかまの声がなんとか聞こえるところにいた。