「エバンズ」ジェームズが追いかけるように呼んだ。「おーい、エバンズ」
しかし、リリーは振り向かなかった。
「あいつ、どういうつもりだ」ジェームズは、どうでもいい質問だがというさりげない顔を装よそおおうとして、装い切れていなかった。
「つらつら行間を読むに、友よ、彼女は君がちょっと自惚うぬぼれていると思っておるな」
シリウスが言った。
「よーし」ジェームズが、こんどは頭に来たという顔をした。「よし――」
また閃光せんこうが走り、スネイプはまたしても逆さかさ宙ちゅう吊づりになった。
「誰か、僕がスニベリーのパンツを脱ぬがせるのを見たいやつはいるか」
ジェームズが本当にスネイプのパンツを脱がせたかどうか、ハリーにはわからずじまいだった。誰かの手が、ハリーの二にの腕うでをぎゅっとつかみ、ペンチで締しめつけるように握にぎった。痛さに怯ひるみながら、ハリーは誰の手だろうと見回した。恐きょう怖ふの戦慄せんりつが走った。成長し切った大人サイズのスネイプが、ハリーのすぐ脇わきに、怒りで蒼そう白はくになって立っているのが目に入ったのだ。
「楽しいか」
ハリーは体が宙に浮くのを感じた。周囲の夏の日がパッと消え、ハリーは氷のような暗くら闇やみを浮き上がっていった。スネイプの手がハリーの二の腕をしっかり握ったままだ。そして、空中で宙ちゅう返がえりしたようなふわっとした感じとともに、ハリーの両足がスネイプの地ち下か牢ろう教きょう室しつの石の床を打った。ハリーは再び、薄暗うすぐらい、現在の魔ま法ほう薬やく学がく教きょう授じゅ研けん究きゅう室しつの、スネイプの机に置かれた「憂うれいの篩ふるい」のそばに立っていた。
「すると」スネイプに二の腕をきつく握られているせいで、ハリーの手が痺しびれてきた。「すると……お楽しみだったわけだな ポッター」
「い、いいえ」ハリーは腕を振り離はなそうとした。
恐ろしかった。スネイプは唇くちびるをわなわな震ふるわせ、蒼白な顔で、歯を剥むき出していた。