教室から出るとき、ハリーの心臓は早鐘はやがねのようだった。廊下ろうかに出て半分ほど進んだとき、遠くのほうで紛まぎれもなく陽よう動どう作さく戦せんの音が炸裂さくれつするのが聞こえた。どこか上の階から、叫さけび声や悲鳴ひめいが響ひびいてきた。ハリーの周りの教室という教室から出てきた生徒たちが、一斉いっせいに足を止め、恐こわ々ごわ天井を見上げた――。
アンブリッジが、短い足なりに全速力で、教室から飛び出してきた。杖つえを引ひっ張ぱり出し、アンブリッジは急いで反対方向へと離はなれて行った。やるならいまだ。いましかない。
「ハリー――お願い」ハーマイオニーが弱々しく哀願あいがんした。
しかし、ハリーの心は決まっていた。カバンをしっかり肩に掛かけ直し、東ひがし棟とうでの騒ぎがいったい何かを見ようと急ぐ生徒たちの間を縫ぬって、ハリーは逆方向に駆かけ出した。
ハリーはアンブリッジの部屋がある廊下に着き、誰もいないのを確かめた。大きな甲かっ冑ちゅうの裏うらに駆かけ込こみ――兜かぶとがギーッとハリーを振り返った――カバンを開けてシリウスのナイフをつかみ、ハリーは「透とう明めいマント」を被かぶった。それからゆっくり、慎しん重ちょうに甲冑の裏から出て廊下を進み、アンブリッジの部屋のドアに着いた。
ドアの周囲の隙間すきまに魔法のナイフの刃を差さし込こみ、そっと上下させて引き出すと、小さくカチリと音がして、ドアがパッと開いた。ハリーは身を屈かがめて中に入り、急いでドアを閉め、周りを見回した。
没ぼっ収しゅうされた箒ほうきの上に掛かった飾かざり皿の中で、小憎こにくらしい子猫がふざけているほかは、何一つ動くものはなかった。
ハリーは「マント」を脱ぬぎ、急いで暖炉だんろのところに行った。探し物はすぐ見つかった。小さな箱に入ったキラキラ光る粉こな、「煙えん突とつ飛ひ行こう粉ごな」だ。
ハリーは火のない火ひ格ごう子しの前に屈んだ。両手が震ふるえた。やり方はわかっているつもりだが、実際じっさいにやったことはない。ハリーは暖炉に首を突っ込んだ。飛行粉を大きくひと摘つまみして、伸ばした首の下にきちんと積んである薪まきの上に落とした。薪はたちまちボッと燃え、エメラルド色の炎が上がった。
「グリモールド・プレイス十二番地」ハリーは大声で、はっきり言った。