「誰かがスネイプに言うとしたら、私しかいない」ルーピンがきっぱりと言った。「しかし、ハリー、まず君がスネイプのところに行って、どんなことがあっても訓練をやめてはいけないと言うんだ――ダンブルドアがこれを聞いたら――」
「そんなことスネイプに言えないよ。殺される」ハリーが憤慨ふんがいした。「二人とも、『憂うれいの篩ふるい』から出てきたときのスネイプの顔を見てないんだ」
「ハリー、君が『閉へい心しん術じゅつ』を習うことは、何よりも大切なことなんだ」ルーピンが厳きびしく言った。「わかるか 何よりもだ」
「わかった、わかったよ」ハリーはすっかり落ち着かない気持になり、苛立いらだった。「それじゃ……それじゃ、スネイプに何か言ってみるよ……だけど、そんなことしても――」
ハリーが黙だまり込こんだ。遠くに足音を聞いたのだ。
「クリーチャーが下りてくる音」
「いや」シリウスがちらりと振り返りながら言った。「君の側の誰かだな」
ハリーの心臓がドキドキを数拍すうはく吹っ飛ばした。
「帰らなくちゃ」ハリーは慌あわててそう言うと、グリモールド・プレイスの暖炉だんろから首を引っ込めた。一いっ瞬しゅん、首が肩の上で回転しているようだったが、やがてハリーは、アンブリッジの暖炉の前に跪ひざまずいていた。首はしっかり元に戻り、エメラルド色の炎がちらついて消えていくのを見ていた。
「急げ、急げ」ドアの外で誰かがゼイゼイと低い声で言うのが聞こえた。「ああ、先生は鍵かぎも掛かけずに――」
ハリーが「透とう明めいマント」に飛びつき、頭から被かぶったとたんに、フィルチが部屋に飛び込んできた。有う頂ちょう天てんになって、譫言うわごとのように独ひとりで何かを言いながら、フィルチは部屋を横切り、アンブリッジの机の引き出しを開け、中の書類を虱しらみつぶしに探しはじめた。
「鞭打むちうち許きょ可か証しょう……鞭打ち許可証……とうとうその日が来た……もう何年も前から、あいつらはそうされるべきだった……」
フィルチは羊よう皮ひ紙しを一枚引っ張り出し、それにキスし、胸許むなもとにしっかり握にぎり締しめて、不ぶ格かっ好こうな走り方であたふたとドアから出て行った。