ハリーは弾はじけるように立ち上がった。カバンを持ったかどうか、「透明マント」で完全に覆おおわれているかどうかを確かめ、ドアをぐいと開け、フィルチのあとから部屋を飛び出した。フィルチは足を引きずりながら、これまで見たことがないほど速く走っていた。
アンブリッジの部屋から一つ下がった踊おどり場ばまで来て、ハリーはもう姿を現しても安全だと思った。「マント」を脱ぬぎ、カバンに押し込み、先を急いだ。玄げん関かんホールから叫さけび声や大勢が動く気配が聞こえてきた。大だい理り石せきの階段を駆かけ下りて見ると、そこにはほとんど学校中が集まっているようだった。
ちょうど、トレローニー先生が解雇かいこされた夜と同じだった。壁かべの周りに生徒が大きな輪わになって立ち何人かはどう見ても「臭しゅう液えき」と思われる物質をかぶっているのにハリーは気づいた、先生とゴーストも混じっていた。見物人の中でも目立つのが、ことさらに満足げな顔をしている「尋じん問もん官かん親しん衛えい隊たい」だった。ピーブズが頭上にヒョコヒョコ浮かびながらフレッドとジョージをじっと見下ろしていた。二人はホールの中央に立ち、紛まぎれもなくたったいま追い詰つめられたという顔をしていた。
「さあ」アンブリッジが勝ち誇ほこったように言った。気がつくと、ハリーのほんの数段下の階段にアンブリッジが立ち、改あらためて自分の獲物えものを見下ろしているところだった。「それじゃ――あなたたちは、学校の廊下ろうかを沼地ぬまちに変えたらおもしろいと思っているわけね」
「相当おもしろいね、ああ」フレッドがまったく恐れる様子もなく、アンブリッジを見上げて言った。
フィルチが人混みを肘ひじで押し分けて、幸せのあまり泣かんばかりの様子でアンブリッジに近づいてきた。
「校長先生、書類を持ってきました」フィルチは、いましがたハリーの目の前でアンブリッジの机から引ひっ張ぱり出した羊よう皮ひ紙しをひらひらさせながら、嗄しわがれ声で言った。「書類を持ってきました。それに、鞭むちも準備してあります……ああ、いますぐ執行しっこうさせてください……」
「いいでしょう、アーガス」アンブリッジが言った。「そこの二人」フレッドとジョージを見下ろして睨にらみながら、アンブリッジが言葉を続けた。「わたくしの学校で悪事を働けばどういう目に遭あうかを、これから思い知らせてあげましょう」
「ところがどっこい」フレッドが言った。「思い知らないね」
フレッドが双子ふたごの片かたわれを振り向いた。
「ジョージ、どうやら俺おれたちは、学生稼か業ぎょうを卒業しちまったな」
「ああ、俺もずっとそんな気がしてたよ」ジョージが気軽に言った。
「俺たちの才能を世の中で試ためすときが来たな」フレッドが聞いた。
「まったくだ」ジョージが言った。
そして、アンブリッジが何も言えないうちに、二人は杖つえを上げて同時に唱となえた。
「アクシオ 箒ほうきよ、来い」