どこか遠くで、ガチャンと大きな音がした。左のほうを見たハリーは、間かん一いっ髪ぱつで身をかわした。フレッドとジョージの箒が、持ち主めがけて廊下を矢のように飛んできたのだ。一本は、アンブリッジが箒を壁かべに縛しばりつけるのに使った、重い鎖くさりと鉄の杭くいを引きずったままだ。箒は廊下から左に折れ、階段を猛もうスピードで下り、双子の前でぴたりと止まった。鎖が石いし畳だたみの床でガチャガチャと大きな音を立てた。
「またお会いすることもないでしょう」フレッドがパッと足を上げて箒に跨またがりながら、アンブリッジ先生に言った。
「ああ、連れん絡らくもくださいますな」ジョージも自分の箒に跨った。
フレッドは集まった生徒たちを見回した。群れは声もなく見つめていた。
「上の階で実演じつえんした『携けい帯たい沼地ぬまち』をお買い求めになりたい方かたは、ダイアゴン横よこ丁ちょう九十三番地までお越しください。『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ店』でございます」フレッドが大声で言った。「我々の新しん店てん舗ぽです」
「我々の商品を、この老いぼれ婆ばばぁを追い出すために使うと誓ちかっていただいたホグワーツ生には、特別割引をいたします」ジョージがアンブリッジ先生を指差した。
「二人を止めなさい」
アンブリッジが金切かなきり声ごえを上げたときには、もう遅おそかった。尋じん問もん官かん親しん衛えい隊たいが包ほう囲い網もうを縮ちぢめたときには、フレッドとジョージは床を蹴けり、五メートルの高さに飛び上がっていた。ぶら下がった鉄製の杭くいが危険をはらんでブラブラ揺ゆれていた。フレッドは、ホールの反対側で、群ぐん集しゅうの頭上に自分と同じ高さでピョコピョコ浮いているポルターガイストを見つけた。
「ピーブズ、俺おれたちに代わってあの女をてこずらせてやれよ」
ピーブズが生徒の命令を聞く場面など、ハリーは見たことがなかった。そのピーブズが、鈴飾すずかざりのついた帽子ぼうしをさっと脱ぬぎ、敬礼けいれいの姿勢を取った。眼下がんかの生徒たちのやんやの喝采かっさいを受けながら、フレッドとジョージはくるりと向きを変え、開け放はなたれた正面の扉とびらを素早すばやく通り抜け、輝かがやかしい夕焼けの空へと吸すい込こまれていった。