ハリーは気分が落ち込んだ。フレッド、ジョージの劇的げきてきな脱だっ出しゅつの話題が尽きてしまうと――もちろんそれまでには何時間もかかったことは確かだが――ロンとハーマイオニーはシリウスがどうしているかを知りたがった。そもそもなぜシリウスと話したかったのか、二人には理由を打ち明けていなかったので、二人に何を話すべきか、ハリーはなかなか考えつかなかった。最終的には正直に、シリウスはハリーが「閉心術」の訓練を再開することを望んでいたと二人に話した。それ以来、話してしまったことをずっと後悔していた。ハーマイオニーは決してこの話題を忘れず、ハリーの不ふ意いを衝ついて何度も蒸むし返したのだ。
「変な夢を見なくなったなんて、もう私には通じないわよ」こんどはこう来た。「だって、昨日きのうの夜、あなたがまたブツブツ寝言ねごとを言ってたって、ロンが教えてくれたもの」
ハリーはロンを睨にらみつけた。ロンは恥はじ入った顔をするだけの嗜たしなみがあった。
「ほんのちょっとブツブツ言っただけだよ」ロンが弁解べんかいがましくモゴモゴ言った。「『もう少し先まで』とか」
「君のクィディッチ・プレイを観みている夢だった」ハリーは残酷ざんこくな嘘うそをついた。「僕、君がもう少し手を伸ばして、クアッフルをつかめるようにしようとしてたんだ」
ロンの耳が赤くなった。ハリーは復ふく讐しゅうの喜びのようなものを感じた。もちろん、ハリーはそんな夢を見たわけではなかった。
昨夜、ハリーはまたしても「神しん秘ぴ部ぶ」の廊下ろうかを旅した。円形の部屋を抜け、コチコチと言う音と揺ゆらめく灯あかりで満ちている部屋を通り、ハリーはまたあのがらんとした、びっしりと棚たなのある部屋に入り込んだ。棚には埃ほこりっぽいガラスの球体が並んでいた。
ハリーはまっすぐに九十七列目へと急いだ。左に曲がり、まっすぐ走り……たぶんそのときに寝言ねごとを言ったのだろう……もう少し先まで……自分の意識いしきが、目を覚まそうともがいているのを感じたからだ……そして、その列の端にたどり着かないうちに、ハリーはベッドに横たわり、四本柱の天蓋てんがいを見つめている自分に気づいたのだ。
「心を閉じる努力はしているのでしょう」ハーマイオニーが探るようにハリーを見た。
「『閉へい心しん術じゅつ』は続けているのよね」
「当然だよ」ハリーはそんな質問は屈くつ辱じょく的てきだという調子で答えたが、ハーマイオニーの目をまっすぐ見てはいなかった。埃っぽい球がいっぱいのあの部屋に何が隠されているのか、ハリーは興きょう味み津しん々しんで、夢が続いてほしいと願っていたのだ。