小道はますます深い茂しげみに覆おおわれ、森の奥へと入れば入るほど、木立こだちはびっしりと立ち並んで、夕暮れどきのような暗さだった。やがて、ハグリッドがセストラルを見せた空あき地ちは遥はるか後方になっていた。ハグリッドが突然歩道を逸それ、木々の間を縫ぬうように、暗い森の中心部へと進みはじめたとき、それまでは何も不安を感じていなかったハリーも、さすがに心配になった。
「ハグリッド」ハグリッドがやすやすと跨またいだばかりの、茨いばらの絡からまり合った茂みを通り抜けようと格闘かくとうしながら、ハリーが呼びかけた。かつてこの小道を逸れたとき自分の身に何が起きたかを、ハリーは生々なまなましく思い出していた。「僕たちいったいどこへ行くんだい」
「もうちっと先だ」ハグリッドが振り返りながら答えた。「さあ、ハリー……これからは塊かたまって行動しねえと」
木の枝やら刺々とげとげしい茂みやらで、ハグリッドについて行くのに二人は大だい奮ふん闘とうだった。ハグリッドはまるで蜘く蛛もの巣を払うかのようにやすやすと進んだが、ハリーとハーマイオニーのローブは引っ掛かかったり絡からまったりで、それも半端はんぱな縺もつれ方かたではなく、解ほどくのにしばらく立ち止まらなければならないこともしばしばだった。ハリーの腕も脚あしも、たちまち切り傷きずや擦すり傷だらけになった。すでに森の奥深く入り込み、薄明うすあかりの中でハグリッドの姿を見ても、前を行く巨大な黒い影のようにしか見えないこともあった。押し殺したような静せい寂じゃくの中では、どんな音も恐ろしく聞こえた。小枝の折れる音が大きく響ひびき、ごく小さなカサカサという音でさえ、それが何の害もない雀すずめの立てる音だったとしても、怪あやしげな姿が見えるのではと、ハリーは暗がりに目を凝こらした。そう言えば、こんなに奥深く入り込んだのに、何の生き物にも出会わないのは初めてだ。何の姿も見えないことが、ハリーにはむしろ不吉ふきつな前ぜん兆ちょうに思えた。
「ハグリッド、杖つえに灯あかりを点ともしてもいいかしら」ハーマイオニーが小声で聞いた。
「あー……ええぞ」ハグリッドが囁ささやき返した。「むしろ――」
ハグリッドが突然立ち止まり、後ろを向いた。ハーマイオニーがまともにぶつかり、仰向あおむけに吹っ飛んだ。森の地面に叩たたきつけられる前に、ハリーが危あやうく抱き止めた。
「ここらでちいと止まったほうがええ。俺おれが、つまり……おまえさんたちに話して聞かせるのに」ハグリッドが言った。「着く前にな」
「よかった」ハリーに助け起こされながら、ハーマイオニーが言った。二人が同時に唱となえた。
「ルーモス 光よ」
杖の先に灯ひが点った。二本の光線こうせんが揺ゆれ、その灯りに照らされて、ハグリッドの顔が暗がりの中から浮かび上がった。ハリーは、その顔がさっきと同じく、気遣きづかわしげで悲しそうなのを見た。