「この人がいままでずっとハグリッドを傷きずつけていたんでしょう だからこんなに傷だらけだったんだわ」
「こいつは自分の力がわかんねえんだ」ハグリッドが熱心に言った。「それに、よくなってきたんだ。もうあんまり暴れねえ――」
「それで、帰ってくるのに二ヵ月もかかったんだわ」ハーマイオニーは聞いていなかったかのように言った。「ああ、ハグリッド、この人が来たくなかったなら、どうして連れてきたの 仲間なかまと一いっ緒しょのほうが幸せじゃないのかしら」
「みんなにいじめられてたんだ、ハーマイオニー、こいつがチビだから」
ハグリッドが言った。
「チビ」ハーマイオニーが言った。「チビ」
「ハーマイオニー、俺はこいつを残してこれんかった」ハグリッドの傷だらけの顔を涙が伝つたい、ひげに滴したたり落ちた。「なあ――こいつは俺の弟おとうと分ぶんだ」
ハーマイオニーは口を開け、ただハグリッドを見つめるばかりだった。
「ハグリッド、『弟分』って」ハリーはだんだんにわかった。「もしかして――」
「まあ――半分だが」ハグリッドが訂正ていせいした。「母ちゃんが父ちゃんを捨すてたあと、巨人と一緒になったわけだ。そんで、このグロウプができて……」
「グロウプ」ハリーが言った。
「ああ……まあ、こいつが自分の名前を言うとき、そんなふうに聞こえる」ハグリッドが心配そうに言った。「こいつはあんまり英語をしゃべらねえ……教えようとしたんだが……とにかく、母ちゃんは俺のこともかわいがらんかったが、こいつもおんなじだったみてえだ。そりゃ、巨人の女にとっちゃ、でっけえ子供を作ることが大事なんだ。こいつは初めっから巨人としちゃあ小柄こがらなほうで――せいぜい五、六メートルだ――」
「ほんとに、ちっちゃいわ」ハーマイオニーはほとんどヒステリー気味に皮肉ひにくった。「顕けん微び鏡きょうで見なきゃ」
「こいつはみんなに小こ突づき回されてた――俺は、どうしてもこいつを置いては――」
「マダム・マクシームも連れて戻りたいと思ったの」ハリーが聞いた。
「う――まあ、俺にとってはそれが大切だっちゅうことをわかってくれた」ハグリッドが巨大な両手を捻ねじり合わせながら言った。「だ――だけんど、しばらくすっと、正直言って、ちいとこいつに飽あきてな……そんで、俺おれたちは帰る途と中ちゅうで別れた……誰にも言わねえって約束してくれたがな……」
「いったいどうやって誰にも気づかれずに連れてこれたの」ハリーが聞いた。
「まあ、だからあんなに長くかかったちゅうわけだ」ハグリッドが言った。「夜だけしか移動できんし、人ひと里ざと離はなれた荒地を通るとか。もちろん、そうしようと思えば、こいつは相当の距離きょりを一気に移動できる。だが、何度も戻りたがってな」
「ああ、ハグリッド、いったいどうしてそうさせてあげなかったの」
引き抜かれた木にぺたんと座り込み、両手で顔を覆おおって、ハーマイオニーが言った。
「ここにいたくない暴力的な巨人を、いったいどうするつもりなの」
「そんな、おい――『暴力的』ちゅうのは――ちいときついぞ」
ハグリッドはそう言いながら、相変わらず両手を激はげしく揉もみしだいていた。
「そりゃあ、機嫌きげんの悪いときに、俺に二、三発食らわせようとしたこたぁあったかもしれんが、だんだんよくなってきちょる。ずっとよくなって、ここに馴な染じんできちょる」