「元気か グロウピー」もう一度突けるように構かまえ、長い大枝を持ったまま後退あとずさりしながら、ハグリッドは明るい声を装よそおった。「よく寝たか ん」
ハリーとハーマイオニーはグロウプの姿が見える範囲はんいで、できるだけ後退こうたいした。グロウプは、まだ引っこ抜いていない二本の木の間に膝ひざをついていた。そのでっかい顔を、二人は驚おどろいて眺ながめた。空あき地ちの暗がりに、灰色の満月が滑すべり込こんできたかのような顔だ。巨大な石の玉に目鼻を彫ほり込んだかのようだ。ずんぐりした不ぶ格かっ好こうな鼻、ひん曲がった口、レンガ半分ほどの大きさの黄色い乱らん杭ぐい歯ば、目は巨人の尺しゃく度どで言えば小さく、濁にごった緑りょく褐かっ色しょくで、起き抜けのいまは半分目ヤニで塞ふさがれている。グロウプはクリケットのボールほどもある汚い指ゆび関かん節せつでゴシゴシ両目を擦こすり、何の前触まえぶれもなく、驚くほど素早すばやく、機敏きびんに立ち上がった。
「アーッ」ハリーのそばで、ハーマイオニーが恐きょう怖ふの声を上げるのが聞こえた。
グロウプの両手と両足を縛しばった縄なわの括くくりつけられている木々が、ギシギシと不吉ふきつに軋きしんだ。ハグリッドの言ったとおり、グロウプは少なくとも五メートルはある。寝ね呆ぼけ眼まなこであたりを見回すと、グロウプはビーチパラソルほどもある手を伸ばし、聳そびえ立つ松の木の高い枝にあった鳥の巣すをつかみ、鳥がいないのに気を悪くしたらしく、吼ほえながら巣をひっくり返した。鳥の卵たまごが手しゅ榴りゅう弾だんのように地面めがけて落ち、ハグリッドは両腕でさっと頭をかばった。
「ところでグロウピー」また卵が落ちてきはしないかと心配そうな顔で上を見ながら、ハグリッドが叫さけんだ。「友達を連れてきたぞ。憶おぼえとるか 連れてくるかもしれんと言ったろうが 俺おれがちっと旅に出るかもしれんから、おまえの世話をしてくれるように、友達に任まかせていくちゅうたが、憶えとるか どうだ グロウピー」
しかしグロウプはまた低く吼えただけだった。ハグリッドの言うことを聞いているのかどうか、だいたいその音を言語として認識にんしきしているのかどうかもわからなかった。グロウプは、こんどは松の木の梢こずえをつかみ、手前に引っ張っていた。手を離はなしたらどこまで跳はね返るかを見て単たん純じゅんに楽しむためらしい。
「さあさあ、グロウピー、そんなことやめろ」ハグリッドが叫んだ。「そんなことしたから、みんな根こそぎになっちまったんだよ――」
そのとおりだった。ハリーは、木の根元の地面が割れはじめたのを見た。