「さて」ベインは危険をはらんだ声でそう言うと、すぐにマゴリアンのほうを見た。「この森に再びこのヒトが顔を出したら、我々はどうするかを決めてあったと思うが」
「いま俺おれは、『このヒト』なのか」ハグリッドが不ふ機き嫌げんに言った。「おまえたち全員が仲間なかまを殺すのを止めただけなのに」
「ハグリッド、君は介かい入にゅうするべきではなかった」マゴリアンが言った。「我々のやり方は、君たちとは違うし、我々の法律も違う。フィレンツェは仲間を裏切うらぎり、我々の名誉めいよを貶おとしめた」
「どうしてそういう話になるのか、俺にはわからん」ハグリッドがもどかしそうに言った。「あいつはアルバス・ダンブルドアを助けただけだろうが――」
「フィレンツェはヒトの奴隷どれいになり下がった」深い皺しわが刻きざまれた険けわしい顔の、灰色のケンタウルスが言った。
「奴隷」ハグリッドが痛烈つうれつな言い方をした。「ダンブルドアの役に立っとるだけだろうが――」
「我々の知識ちしきと秘ひ密みつを、ヒトに売りつけている」マゴリアンが静かに言った。「それほどまでの恥ち辱じょくを回復する道はありえない」
「そんならそれでええ」ハグリッドが肩をすくめた。「しかし、俺に言わせりゃ、おまえさんたちはどえらい間違いを犯おかしちょる――」
「おまえもそうだ、ヒトよ」ベインが言った。「我々の警告けいこくにもかかわらず、我らの森に戻ってくるとは――」
「おい、よく聞け」ハグリッドが怒った。「言わせてもらうが、『我らの』森が聞いて呆あきれる。森に誰が出入りしようと、おまえさんたちの決めるこっちゃねえだろうが――」
「君が決めることでもないぞ、ハグリッド」マゴリアンが澱よどみなく言った。「今日のところは見逃みのがしてやろう。君には連れがいるからな。君の若駒わかごまが――」
「こいつのじゃない」ベインが軽蔑けいべつしたように遮さえぎった。「マゴリアン、学校の生徒だぞ たぶん、すでに、裏切うらぎり者のフィレンツェの授業の恩恵おんけいを受けている」
「そうだとしても」マゴリアンが落ち着いて言った。「仔馬こうまを殺すのは恐ろしい罪つみだ――我々は無む垢くなものに手出しはしない。今日は、ハグリッド、行くがよい。これ以後は、ここに近づくではない。裏切り者フィレンツェが我々から逃のがれるのに手を貸かしたときから、君はケンタウルスの友情を喪失そうしつしたのだ」
「おまえさんたちみてえな老いぼれラバの群れに、森から締しめ出されてたまるか」
ハグリッドが大声を出した。
「ハグリッド」ハーマイオニーが甲高かんだかい恐きょう怖ふの声を上げた。ベインと灰色のケンタウルスの二頭が蹄ひづめで地面を掻かいていた。「行きましょう。ねえ、行きましょうよ」
ハグリッドは立ち去りかけたが、石弓いしゆみを構かまえたまま、目は脅おどすようにマゴリアンを睨にらみ続けていた。
「君が森に何を隠しているか、我々は知っているぞ、ハグリッド」ケンタウルスたちの姿が見えなくなったとき、マゴリアンの声が背後から追いかけてきた。「それに、我々の忍耐にんたいも限界に近づいているのだ」