その夜の夕食は意気が上がらなかった。ハリーとロンはあまり話さなかったが、一日中勉強したあとなので、もりもり食べた。ところがハーマイオニーは、しょっちゅうナイフとフォークを置き、テーブルの下に潜もぐり込んではカバンから本をつかみ出し、事実や数字を確かめていた。ちゃんと食べないと夜眠れなくなるよとロンが忠ちゅう告こくしたそのとき、ハーマイオニーの指の力が抜け、皿に滑すべり落ちたフォークがガチャッと大きな音を立てた。
「ああ、どうしよう」玄げん関かんホールのほうをじっと見ながら、ハーマイオニーが微かすかな声で言った。「あの人たちかしら 試し験けん官かんかしら」
ハリーとロンは腰掛こしかけたままくるりと振り向いた。大広間につながる扉とびらを通して、アンブリッジと、そのそばに立っている古こ色しょく蒼そう然ぜんたる魔法使いたちの小集団が見えた。ハリーにとってはうれしいことに、アンブリッジがかなり神しん経けい質しつになっているようだった。
「近くに行ってもっとよく見ようか」ロンが言った。
ハリーとハーマイオニーが頷うなずき、三人は玄関ホールに続く両開きの扉のほうへと急いだ。敷居しきいを越えたあとはゆっくり歩き、落ち着きはらって試験官のそばを通り過ぎた。ハリーは、腰の曲がった小柄こがらな魔女がマーチバンクス教きょう授じゅではないかと思った。顔は皺しわくちゃで、蜘く蛛もの巣をかぶっているように見える。アンブリッジが恭うやうやしく話しかけていた。マーチバンクス教授は少し耳が遠いらしく、アンブリッジ先生とは数十センチしか離はなれていないのに、大声で答えていた。
「旅は順調でした。順調でしたよ。もう何度も来ているのですからね」マーチバンクス教授は苛立いらだったように言った。「ところでこのごろダンブルドアからの便たよりがない」箒ほうき置おき場ばからでもダンブルドアがひょっこり現れるのを期待しているかのように、教授は目を凝こらしてあたりを見回した。「どこにおるのか、皆目かいもくわからないのでしょうね」
「わかりません」アンブリッジはハリー、ロン、ハーマイオニーをじろりと睨にらみながら言った。こんどはロンが靴くつひもを結び直すふりをしながら、三人は階段下でぐずぐずしていた。
「でも、魔法省がまもなく突き止めると思いますわ」
「さて、どうかね」小柄なマーチバンクス教授が大声で言った。「ダンブルドアが見つかりたくないのなら、まず無理だね わたしにはわかりますよ……このわたしが、いもりの『変へん身しん術じゅつ』と『呪じゅ文もん学がく』の試験官だったのだから……あれほどまでの杖使つえづかいは、それまで見たことがなかった」
「ええ……まあ……」アンブリッジが言った。三人は一歩一歩足を持ち上げ、できるだけのろのろと大だい理り石せきの階段を上って行くところだった。「教きょう職しょく員いん室にご案内いたしましょう。長旅でしたから、お茶などいかがかと」