なんだか落ち着かない夜だった。誰もが最後の追い込みで勉強していたが、大してはかどっているようには見えなかった。ハリーは早めにベッドに入ったが、何時間も経たったのではと思えるほど長い間目が冴さえて、眠れなかった。進路しんろ相談で、どんなことがあってもハリーを「闇やみ祓ばらい」にするために力を貸かすと、マクゴナガルが激はげしく宣せん言げんしたことを思い出した。いざ試験のときが来てみると、もう少し実現可能な希望を言えばよかったと思った。眠れないのは自分だけではないと、ハリーは気配を感じていた。しかし、寝室しんしつの誰も口をきかず、やがて一人、二人とみな眠りに落ちていった。
翌日の朝食のときも、五年生は口数が少なかった。パーバティは小声で呪じゅ文もんの練習をし、目の前の塩入れをピクピクさせていた。ハーマイオニーは「呪文学問題集」を読み直していたが、目の動きの早いこと、目玉がぼやけて見えるほどだった。ネビルはナイフとフォークを落としてばかりで、マーマレードを何度もひっくり返した。
朝食が終ると、生徒はみんな教室に行ったが、五年生と七年生は玄げん関かんホールに屯たむろしてうろうろしていた。九時半になると、クラスごとに呼ばれ、再び大広間に入った。そこは、ハリーが「憂うれいの篩ふるい」で見たとおりに模も様よう替がえされていた。父親、シリウス、スネイプがふくろうを受けていた場面だ。四つの寮りょうのテーブルは片かたづけられ、代わりに個人用の小さな机がたくさん、奥の教職員テーブルのほうを向いて並んでいた。一番奥に、生徒と向かい合う形でマクゴナガル先生が立っている。全員が着席し、静かになると、「始めてよろしい」の声とともに、先生は自分の机に置かれた巨大な砂時計をひっくり返した。先生の机にはその他、予よ備びの羽は根ねペン、インク瓶びん、羊よう皮ひ紙しの巻紙まきがみが置いてあった。
ハリーはドキドキしながら試験用紙をひっくり返した。――ハリーの右に三列、前に四列離はなれた席で、ハーマイオニーはもう羽根ペンを走らせている――ハリーは最初の問題を読んだ。
物体を飛ばすために必要な呪文を述べよ。
さらにそのための杖つえの動きを記き述じゅつせよ。
棍棒こんぼうが空中高く上がり、トロールの分厚ぶあつい頭ず蓋がい骨こつの上にボクッと大きな音を立てて落ちたときの思い出が、ちらりと頭を過よぎった……ハリーはフッと笑顔になり、答案用紙に覆おおいかぶさるようにして書きはじめた。